フリーアナウンサーとして活躍する岩佐まりさん。母親が60歳で若年性アルツハイマー型認知症を発症し、シングル介護を続けています。20代、30代の頃は介護をしながらキャリアや恋愛などに悩むことが多かったそうです。(全3回中の1回)

女優を目指し、アイドル活動から初めたものの

── 現在、フリーアナウンサーとして活躍されていますが、今のお仕事につかれた経緯を教えてください。

 

岩佐さん:若い頃に舞台女優になりたかった母や芸能活動をしていたいとこの影響で、昔から芸能界に興味がありました。高校でも演劇部に所属して、その頃に芸能事務所のオーディションに合格しました。その後、高校卒業後に上京して、芸能活動を始めることになったんです。

 

といっても、今のようなアナウンサーの仕事ではなく、最初は「i-chips」というアイドルグループで2〜3年活動をしました。女優の仕事がずっとしたかったので、グループ活動が終わった後もオーディションなどを受けていたのですが、ことごとく受からなくて…。女優の仕事は決まらないのに、ナレーションや司会のオーディションに行くと合格することが多く、そういう仕事が増えていったんです。

 

アイドル活動時代の岩佐さん(左)

── ナレーションや司会の経験があったのでしょうか?

 

岩佐さん:まったくないんです。ただオーディションなどでは「滑舌がいい」「声が響く」など褒められることがあり、もしかして話すような仕事が向いているのかなと。それで2009年にフリーアナウンサーが多く所属する事務所に移籍しました。

 

ただ、それまでは自己流で話して褒められてきただけ。そのため基礎ができていなかったので、移籍直後はレッスンでとにかく怒られまくりました。自信を持って来たのに、場違いなところにいると落ち込む日々でしたね。

 

── それでも諦めなかった?

 

岩佐さん:移籍してから2年経った頃に、ようやくケーブルテレビのキャスターに採用されたんです。そこでニュース番組やレポーターなど、さまざまなことを経験し、今の私のベースとなるようなことをたくさん学ぶことができました。アナウンサーの仕事はしっかりものごとを伝えるために、読むだけではなくその背景も学ぶことが重要です。知らなかったことをたくさん知ることに、やりがいを感じられました。

介護で自分の評価が下がる理由がわからない

── 女優の仕事に未練はなかったのでしょうか?

 

岩佐さん:お芝居をすることが好きだったので、未練はありました。実は2004年、母が55歳のとき、物忘れなどの認知症の症状が出始め、60歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。母はまだ若く、本人も施設に入ることは望んでいませんでした。私自身も母を一番幸せにできるのは自分だと思うし、できる限りのことをしたいと思い、自分で介護しようと決意したんです。

 

お母さんと岩佐さん

ただ介護にはお金が必要です。仕事がしっかりしていないと収入がなくなり、介護もできなくなってしまいます。そのため話すことが自分の強みであるならば、それに勝負をかけてみよう!と思ったんです。

 

── 2006年ということは、岩佐さんはまだ20代ですよね?介護をしながらだと、キャリアアップは大変だったのでは?

 

岩佐さん:そうですね。まず、仕事面では周りからの評価が下がりました。アナウンサーはいくらでも代わりがいる世界。介護しているから「遠くのロケは無理だろう」「飲み会は誘えない」「結婚できない」など、仕事関係の人にさんざん言われました。そのためキャリアアップは難しいだろうと感じましたね。

 

── プライベートの時間はどうでしたか?

 

岩佐さん:なかなか出かけることができないので、プライベートでも誘われることが少なくなりました。たまに合コンに参加していい人がいて「次また会いましょう」と言われても、介護と仕事の両立でとにかく自分の時間を確保するのが大変で、次会うのが本当に難しいんです。

 

実はその頃に二度ほど会った男性がいました。私が母の介護をしている話をすると、「僕の家はお金持ちだから、介護が必要になったら老人ホームに入居させる。あなたのように自宅で介護する人の気持ちがわからない」と言われて。確かにうちは裕福な家庭ではありませんが、私はやっぱり大切な母のことは自分で介護したい。彼とは根本的に考えが合わないのだと思いました。

 

── 周りからそのような言葉を言われても気持ちが変わることはなかったのはなぜですか?

 

岩佐さん:ショックなことも多かったですが、自分は間違ってないと思ったからです。母の介護をしていることで、周りから自分の評価が下がる理由がわからない。なので、いつか見返してやる!という気持ちでした。

 

アナウンサーの仕事はもちろん今後も続けたいです。でも介護をするなかで資格を取るなど、たくさんの経験をして、介護に関する仕事にも興味を持つようになりました。講演会や介護で悩んでいる人たちが共有できる場をつくるなど、自分の知識や経験を活かせることがあると思います。少しでも苦しんだり悩んだりしている人の役に立てるように、今後は仕事の幅を広げられればと思います。

 

 

PROFILE 岩佐まりさん

1983年、大阪生まれ。2002年にタレントとしてデビューし、現在はフリーアナウンサー、司会者、リボーターなどとして活躍。2009年に母親が若年性アルツハイマー型認知症を発症し、シングル介護をしている。2023年に出産、1歳児の母。

 

取材・文/酒井明子 写真提供/岩佐まり