3年間働いて返せる金銭的リスクならよし

── 起業をしたときに、大変なことはありましたか?

 

市原さん:最初は、少額の、夫からの投資と私の貯金で事業を始めました。お金が出ていくいっぽうで、プレッシャーも感じましたが、意外にも悲壮感はありませんでした。私は挑戦するときに、2つの考え方を持つようにしています。1つ目は、自分がとりうる最大のリスクを考え、その範囲の中であれば、損や失敗をしても大丈夫と考えることです。2つ目は、そのうえで楽観的な考えで挑戦することです。わらしべ長者的なラッキーを引き寄せられるだろうと。このことで、焦ることはあっても絶望することはありませんでした。「まだ想定するリスクの範囲内だから大丈夫」とよく言っていました(笑)。そうしているうちに、いくつかのご縁がつながり、投資を受けて事業が動き始めました。

 

── とりうる範囲の中のリスクはどのように設定されていたのでしょうか。

 

市原さん:私が3年間働いて、返せるくらいの金銭的リスクだったらよしと考えていました。それくらいであれば、無収入で借金を返す人生でも家族は許してくれるかなと。最初はそういう気持ちでやっていました。

 

「SOÉJU(ソージュ)」のポップアップストアにて

── 働きながら子育てをするなかで大事にしてきたことはありますか?

 

市原さん:第六感だけはあけておくことです。子どもたちの異変に気づけないほど、仕事に冒頭したり、自分のメンタルが病んだりするほど仕事をしてはいけないと思っています。「いつもとちょっと違うな」「病気が治らない」「今日は話したそうだな」とか、そういう直感的なサインに気づける心の余裕は残しておこうと思いました。

 

あとは、完璧主義は最初からあきらめていましたね。家事の優先順位をつけて、生命活動に関わるものからやっていく。生命活動とは食事に関わることです。具のたくさん入ったお味噌汁とご飯だけは作るけど、掃除はまだいいよねとか(笑)。優先順位を決めてからは家族みんながすすんで家事をやるようになりました。長男が病気になって以来、家族で一緒にいる時間が増えて、不思議なことに心がとても穏やかなんですよね。看病で一生分と言えるほどの時間を子どもたちと一緒に過ごせたことは、貴重な期間だったと思います。

 

── 今後、働くうえで成し遂げたいことはありますか?

 

市原さん:働くうえで私が女性であることは、ずっと切り離せない問題・課題であり続けます。働く女性のもどかしさを解決する仕事がしたいという思いは今も一貫してあります。そのためにまずは、モデラートで働く方が柔軟に働ける環境を作る事。そしてモデラートの商品やサービスを届ける方の生活コストを担える会社になりたいと考えています。

 

良質な洋服を適正な価格で買っていただいて、その洋服を長く使うことができれば、他のことにお金を使えますよね。ベビーシッター代や家族旅行の費用に充てることができるかもしれません。消費者の生活コストを担える会社という理念にはずっとこだわっていますし、今後もこだわっていきたいです。モデラートができることはまだまだ小さいですが、私たちの仕事が社会の一助になればと考えています。

 

PROFILE 市原明日香さん

1976年福島県生まれ。東京大学教養学部卒。2児の母。アクセンチュア株式会社で3年間経営コンサルティングに従事、ルイ・ヴィトンジャパン株式会社にて4年間CRMに従事。息子の看病、フリーランスの期間を経て、2014年12月にモデラート株式会社を設立。

 

取材・文/大野英子 写真提供/市原明日香