幼児期に体験活動が必要な理由

── 園内にさまざまな種類の野菜や花の苗が植えてあるのが印象的です。

 

石井正子施設長:ネットで調べればすぐになんでもわかる時代ですが、園ではあえて実体験を大切にしたいと思っています。例えば、梅干しを見て、食べた経験がある大人は酸っぱいと思って唾液が出てきますが、食べたことがなければその反応は起こりません。実際に触れているものに関しては豊かにイメージが湧くけれど、体験がなければ二次元のものでしかないんです。幼児期には、見て、触って、匂いを嗅いで、五感に訴える体験をたくさんさせてあげる必要があると思っています。

 

晴海西こども園
クラス名にもなっている鳥がとまった可愛らしいアート

AIなどに変わっていって、今、大切とされているスキルも将来的にいらなくなってくるものが出てきます。それでも、いわゆる生きる力と、人と協力して取り組んで、思いやりを持つというソーシャルの面はどんな時代でも変わらないと思いますし、自分から何かをしたいと思う意欲の面も大事にしていきたいことですね。

 

── 幼児期にさまざまな体験をさせることのよさはなんですか。

 

木村英美園長:子どもは本来、いろいろなことに興味関心を持っていて、何か好きなことをやってみたいと思ったときに、夢中になって飛び込んでいけるんです。そこで失敗したとしても、立ち直りも早いですし、それを踏まえて次はこうしてみようと工夫もしていきます。幼児期には、人との出会いもそうですが、どんな環境を子どもに出会わせてあげるかを考えていく必要があると思います。

 

── 子どもの習い事や娯楽の種類も多種多様ですし、どれが本当にいいのか悩む親は多いです。

 

木村英美園長:あれがいいから、これがいいからと、あまりになんでもしてしまうと子どもは完全な受け身になってしまいます。選択肢が多い時代ではありますが、子どもの頃を子どもとして過ごさせてあげる時間をこの園では大切にしたいです。子どもは大人のミニ版ではありません。喧嘩もたくさんしていいし、どろんこになってもいいです。子どもらしく充実した時間を過ごせたらと思い描いています。

 

── 園内には保護者の方が、気軽に相談に立ち寄れるスペースもあるそうですね。

 

木村英美園長:私自身が、子育て中になんでも話せて、ガス抜きができる人がいると日々の励みになると実感していたんです。

 

晴海西こども園
保護者の方が気軽に立ち寄れる「相談室」

保護者の方に「何かあったら、いつでもどうぞ」と声をかけています。お話を聞くと、「ほっとしました」とか、「また頑張ります」とおっしゃっていて。育児の悩みやつらい気持ちは一時的なもので、だからこそ子どもが伸びるんですというようなお声がけをしています。

 

晴海西こども園は、東京オリンピック・パラリンピックの選手村の跡地エリアに立地した、新しくまちづくりをしている場所で、入居される方はみなさん新しく引っ越して来られた方々です。園内はまだ空き教室もありますので、今後は自治体と相談して受け入れ人数を増やしていく予定ですが、子育てには地域の繋がりも必要です。お子さんを通じてご縁がある方とお話ができるような環境づくりをしていくことも、とても大切だと思っています。

 

取材・文・撮影/内橋明日香