今年4月に東京都中央区に開園した晴海西こども園。幼稚園枠の希望者が約3倍となった理由を石井施設長と木村園長に伺うと「実は他の幼稚園と活動はあまり変わらない」との意外な答えが──。共働き世帯が増えるなか「その子のペースで待ってあげること」を大切にしたいと語る、人気のこども園を取材しました。

フルタイムでも幼稚園枠を希望する保護者

── 晴海西こども園が立地する東京都中央区は、共働き世帯が多く、幼稚園に入園する子どもの数は減少していて保育園の需要が高い地域です。新設のこども園にも関わらず、幼稚園機能枠の定員130人の入園希望者の倍率は、3歳児クラスで約3倍となったそうですね。親御さんが入園を希望する理由にはどんなことを挙げていましたか。

 

木村英美園長:運営が渋谷中学高等学校や幕張中学校・高等学校を手掛ける渋谷教育学園ということもあって、教育的な部分を期待されているご家庭が多いです。ご自身が渋谷教育学園の卒業生という方もいらっしゃいました。

 

晴海西こども園の木村英美園長
お話を伺った木村英美園長。これまで昭和女子大で特命教授をつとめ、東京都の幼児教育に関わるなど経験も豊富

渋谷教育学園は都内と千葉県で2つの幼稚園と3つのこども園を運営しておりますので、これまでのノウハウをもとに各園と連携しながら進めています。

 

石井正子施設長:こども園にはいろいろなタイプがありまして、幼稚園的な要素が強い園と保育園的な要素が強い園もあるのですが、晴海西こども園の定員は、幼稚園機能枠が130人、保育園機能枠が100人で、当初は幼稚園的な特色が強いこども園になると想定されていました。

    

ただ、実際に蓋を開けてみると、幼稚園機能の枠で入園されたお子さんも、ご両親がフルタイムで働いている方が多く、通常の9時半〜13時半の保育時間の後も、預かり保育を利用されている方が131人中、半分ほどいらっしゃいます。

 

── 勤務時間を考えると、本当は保育園枠で入園させたいけれど、保育園は点数制で自治体が園を選定することになる。確実にこちらのこども園に入れたいという思いから、幼稚園枠で応募された方が多いということでしょうか。

 

石井正子施設長:おっしゃる通りです。待機児童もだいぶ減っていて保育園も入りやすくはなっているのですが、保育園の場合、どの園に通うことになるかは区が割り振るため、働いている方や就業予定の方も幼稚園機能の枠で応募をして、第一希望の園に入れたいという意向もあると思います。

 

晴海西こども園
広大な敷地に園庭が3か所、1~3階に設置されている

幼稚園機能枠で入園希望のご家族には、お子様の様子を集団行動で見させていただき、親子面接を行いました。みなさんを受け入れたい気持ちは山々ですが、定員があるので、入園者を決める際は非常に悩みました。

広大な敷地に園庭は3つ

── 園の特色について教えてください。

 

木村英美園長:渋谷教育学園の「自調自考」という理念を実践させていていくために、子どもたちが自分のしたいことに集中できるよう、遊びや経験を通して可能性を拓いていくことを最大限保証したいと思っています。区民センターや図書館などが入る施設に開園し、敷地面積も広く園庭は各階ごとに設置されていて、全部で3か所あります。都心では、まだまだ園庭がなく、近くの公園などで代用している保育園も多いなかで、大変充実した設備だと思います。

 

英語教育や体操、スイミングなどを専任講師にご指導いただく側面を魅力に感じてくださる方も多く、特色のひとつでもあるのですが、園活動の中身そのものは他の幼稚園とそれほど変わらないと思います。

 

晴海西こども園
木をふんだんに使った広々としたホール

── 渋谷教育学園は、運営する学校からハーバード大学などに進学する生徒を多数輩出している進学校として知られていますが、幼児期から先進的なプログラムを取り入れて、特殊な能力を身につけさせようとするわけではないんですね。

 

木村英美園長:幼児期にふさわしい環境で、この時期だけに限られる体験を大切にすることが、将来的に自分で好きなことを見つけられる力につながるという考えが基本としてあります。

 

保護者の皆様には、「お子さんを育て急がないでほしい」と伝えていますが、あえて一つひとつ手間暇かけて作り上げていくプロセスを楽しんで体験してほしいと思っています。成長にはその子のペースがありますので、一人ひとりの足並みに合わせて成長を応援してあげたいと思っています。

 

今、園内で田んぼづくりを始めたのですが、種もみを浸水させて芽が出てきた様子を見て、子どもたちが感動しているんです。そういう少しずつの変化にも気がついて、楽しんでいける時間的なゆとりがある生活をしてほしいと思います。忙しい時代ではありますが、子どもの成長には大人が待ってあげることが大事です。

 

── 私自身もそうですが、子どもの朝の支度から夜寝るまでを振り返っても、時間の余裕に関しては耳が痛いご家庭も多いと思います。

 

石井正子施設長:働いている方が多いので、社会で成功しているがために、子育てにおいても何か問題があれば「原因を探り、解決のために行動を起こす」というサイクルにすぐ持っていこうとしているように感じます。特にお父様にその傾向が多いのですが、子育ては理屈通りにいきません。忙しい毎日の中で、できる限り早く子育ての悩みを解決したい気持ちはわかるのですが、子育ては「これを解決すれば、すぐにその問題がなくなる」ということはあまりありません。

 

ピーマンの苗
苦手な子どもが多いピーマンの苗もぐんぐん成長中

結果が思いがけない時にあらわれてくることもあります。例えばみんなと一緒に活動するのが苦手なお子さんも、ある日突然、行動を起こすことがあります。実は、何もしていないわけではなく、しっかり周りの様子を見て蓄えているんです。

 

タネを撒いて、なかなか芽が出なくても地面の下でしっかり発芽の準備をしているのと同じです。そこを何も変化がないからと急いで、挙げ句の果てに土を掘り出してしまっては、芽は育ちません。ノウハウを一生懸命調べて実践するよりも、目の前のお子さんとじっくり向き合ってほしいですね。

 

コロナ禍の影響もあって、在宅勤務が可能になった方も多く、ご両親で共に育てているご家庭が多いのはとてもいい時代だと感じています。朝も帰りもお父さんが園へのお送り、お迎えをする方も多いですし、夫婦で分担されている方もいます。ただ、ご家庭にもいろいろな形態がありますので、連絡事項をどなたに伝えるかなど、個別的な配慮が必要な時代になっているとも感じます。