独立の理由「何もできない自分が怖い」

── 具体的にはどんなことをしたいと思っていたんですか。

 

キンタロー。さん:自立と言いますか、独り立ちはいつかしたいと思っていました。仕事でこのままの状態をキープできる保証はどこにもないですし、いつどうなるかわからないご時世で、ひとりでなんでもできるかと考えてみると、自分は何もできないなと。

 

事務所に所属しているよさは、仕事の窓口となってくれて、仕事をするうえで守ってもらえることでした。それを前提に12年間、仕事をさせてもらっていたのですが、「自分でどうにかしなきゃ」というときに動けない自分ではいたくないと思ったんです。

 

細かいことで言うと、たとえば現場に行くにも新幹線のチケットを自分で買うとか、こういうやりとりの末にこの仕事が決まった、という過程やお金の流れもすべて自分で見てみたかった。これだけの人が関与していてひとつの仕事が成り立っているということを知って、もっと仕事の重みを感じてみたかったんです。

 

あとは、自分で何もできないのが怖いとも思いました。人は常に動いていて、何年も在籍してお世話になっていた人が辞めて行く姿も見てきましたし、ずっとこのままの環境で仕事を続けられるとは限りません。何があっても、揺るぎない自分でいられるような未来を目指したいと思っています。

 

キンタロー。さん
「トゥームレイダー!!」アンジェリーナ・ジョリーのものまねをするキンタロー。さん

── 今は、仕事のことはすべて自分でしているんですか?

 

キンタロー。さん:今月までは事務所に所属していた時にいただいた案件が多いので、現場にマネージャーも来ますし、まだ「完全にフリーになりました」という実感はないです。今まではいろんなことを事務所にしてもらっていたのですが、独立してからいただいた仕事は自分で調整していかなくてはならないので、そのふたつが混在して、ちょっと混乱するときはあります。

 

でも、これまで12年間も在籍していたのに、すべてがいっぺんになくなってしまうのは寂しいので、こうして徐々にスライドできているのはいいことかもしれません。先日も、地方に営業に行っていたんですが、それは独立してからいただいた案件なので、もう現場にマネージャーはいません。ふと、「もういないんだ」と思ったら別れた彼氏を惜しむような気持ちになりました。

 

── 決断したのはご自身であっても、寂しさはあると。

 

キンタロー。さん:振った側なのに、男を失った時の感情に似ています。「このままの関係を続けていても」とふたりの未来を思って別れたけれど、やっぱり嫌いになったわけじゃないし、いないのは寂しい。やっぱり女に生まれたので、複雑な思いがあるんです。でも、それを決めたのは自分なので「いったい、どっちなんだい」って自分に突っ込んでいます。

 

── たとえがわかりやすいです(笑)。独立のことはどなたかに相談していましたか。

 

キンタロー。さん:ものまね芸人で、先に独立をされていた山本高広さんには話を聞いてもらっていました。山本さんは、「いろいろ考えて独立することにしたけど、意外とやってみたら向いていたことに気がついた」と。あとは、ひとりになると起きやすいトラブルについてもアドバイスをいただきました。

 

── 仕事の調整なども自分でしているとのことですが、具体的にどんなことが変わりましたか。

 

キンタロー。さん:仕事の案件のやりとりも自分でさせてもらっているんですけど、メールの受信と送信がごっちゃになってしまって、読み落としや返信の漏れが結構出てきてしまって。いくら2年前から辞めるということを伝えていたとしても、周りの人には言えないですし、その準備ができるわけでもありません。独立して初めて自分でいろいろやってみながら、手探りで調整している感じです。

 

── 大変さはもちろんあると思いますが、独立してよかったことはなんですか。

 

キンタロー。さん:私は、小さなことでクヨクヨ悩みやすい性格なんです。でも、その悩みが、割と正常範囲のレベルになったように思います。仕事について考えることが多すぎて、取り止めもない悩みに時間を使わなくなったのは、精神的にはとてもいいです。

 

これまでは「この先、仕事がなくなったらどうしよう」とか、「子どもが2人いるのに、この仕事をこのまま続けていいのだろうか」というような、漠然としたことを不安に思っていたんです。でも、ひとりで仕事をすることで、悩む内容がもっと現実的で、具体的に解決していかねばならないことに変わりました。

 

── 忙しいのが合っているのかもしれないですね。

 

キンタロー。さん:コロナ禍もそうでしたが、私は少しでも時間ができると、ろくなことをしない人間なんです。嫌なのに、常に悩んでいたいという性格で、悩みがないと自分から探しに行くんですよ。エゴサもして、わざわざ悩みの種を探しに行っていました。それが今は、目の前にあるすぐ解決しなくてはならないことがたくさんあるので、まともな日常が送れています。気持ちの面でも楽になったのは、独立後の大きな変化だと思います。

 

PROFILE キンタロー。さん

1981年愛知県生まれ。社交ダンスの講師などを経て、30才のときにお笑い芸人の道へ。前田敦子さんのモノマネでヒットし、その後ものまねのレパートリーを増やしながら活動の幅を広げる。プライベートでは2児の母。2024年3月末に12年在籍した松竹芸能を卒業し、独立。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/キンタロー。