産後のダメージは想像以上「軽く走ることもできない」
── 20年3月に長男を出産されたときは難産だったそうですね。
岩清水選手:32時間かかりました。サッカーの練習はゴールが見えているのでツラいメニューにも耐えられましたけど、出産はゴールが分からない。だから長男が生まれたときは感動の再会というよりも、“やっと終わった!”という安堵感の方が大きかったんです。体力があるから大丈夫、いつもトレーニングしているんだから大丈夫と思われるでしょうけれど、むしろ一般の方々より難産だったという(笑)。筋肉が邪魔をしていたのかもしれませんね。きっとひとりだったら耐えられていませんでした。夫がずっと一緒にいてくれたことが本当に心強かったです。
── 出産後、現役に復帰するまでは想像以上に時間がかかったそうですが不安はなかったですか?
岩清水選手:出産して2か月経った頃にようやく落ち着いてきたので、ちょっと体を動かそうかなという気持ちになりました。それまでは育児が始まったばかりで、新生児を相手に眠れないし、いろいろ大変でそんな気持ちになれませんでした。最初は半年ぐらいで戻れるんじゃないかと考えていたんですが全然、無理でしたね。コロナ禍ということもあって、産後の行動がかなり制限されてしまって、復帰に向けて予定していたトレーニングのスタートも遅れてしまい。アスリートという自負もあったので、やればそれなりに体は戻ると考えていたんですが、想像以上にダメージがありました。体力のなさに愕然としたことも。とにかく軽く走ることでさえできなかったので。
── 復帰を想定した場合、女性アスリートが出産をするタイミングというのは難しそうですね。
岩清水選手:もしその先も長く現役生活を続けたいと考えるのであれば、20代後半で出産しないと難しいかもしれません。ただ、20代後半ってアスリートとしても脂が乗っているというか、一番体が動く年代でもあるし、経験を重ねてきて選手としていい時期でもある。代表にも選ばれているとよりその決断はさらに難しくなりますよね。海外ではオリンピックなど大きな大会が終わってひと区切りついたときに受精卵を凍結したり、妊娠、出産をスケジューリングするというケースもあると聞いたことがあります。
── 近年では日本の女性アスリートでも卵子凍結を選択される方もいらっしゃいます。過去にそういう選択をしたいと考えたことはありましたか?
岩清水選手:若い頃はあまり考えていなかったんですが、出産してからそういう話も耳にするようになりました。ただ、卵子凍結をしても維持費が高くて、あまり現実的ではなかったりして。海外のチームではチーム持ちで希望者には卵子凍結をさせてくれたり、そういう手当もあるんです。シンプルにすごいなと思いますし、選手としては心配事のひとつがなくなって選択肢も広がる。海外における知識の広がりやの理解度は深いなと感じますね。
── 選手生活と母親業を両立する中で大変なことはどんなことでしょうか。
岩清水選手:例えば子どものイベントがあってもスケジュールの関係で私が行けず、夫が出席することが多いんですよ。先日は誕生日会があったんですがそれも夫が出席しました。練習や試合のスケジュールの都合もあるので仕方がないんですが、授業参観とかも見られないですし…そういったことが今一番つらいですね。
ただ、私の場合は子どもが小さい頃から保育園に預ける体制を整えてもらって、預けることができて、その間は「ママ」から「アスリート」に戻るメリハリをつけられていました。クラブハウスに来ただけではまだ「ちゃんと幼稚園に行ったかな?」と気になったりもしますけど、トレーニングをしている間はサッカーに集中。数時間ですが子どもと離れたぶん、また会いに行く楽しさみたいなのもあって。“アスリートスイッチ”と“ママスイッチ”がうまく切り替わっている。そういった時間にはずいぶん助けられています。
── ご主人の存在も大きいですね。
岩清水選手:自分ひとりではどうしてもできないことがたくさんありますから、そういった意味でも本当に心強い存在です。夫は長男が生まれてすぐに、ママだけしか育児ができないということにならないように気をつけてくれていて。特に私の場合は復帰したいと明言していたので、最初から育児にも積極的でした。もちろんそれは今も変わりません。最近も遠征で自宅を不在にしたこともあったんですが、私がいなければいないで長男は夫にべったりでママを求めて泣くこともないらしいので。ただ、私が帰った瞬間にパパはもういらないになっちゃうんですけどね(笑)。
── 出産や育児の経験が、アスリートとしてプラスに働いていることはありますか。
岩清水選手:長くプレーしてきたなかでいろんな方々に支えていただいていることは常々感じていますが、家族のためにというモチベーションでプレーするのはすごく新鮮だし、大きな活力になっていますね。