「引き継ぎをして欲しい」のひと言から

休日にハンモックでゆらりくつろぐ娘さん

── 正月が終わって1月4日。旦那さんと一緒に療育センターに行かれたそうですね。

 

長谷部さん:夫から「引き継ぎをしてほしいので、最初だけ一緒に行ってもらえませんか?」と言われました。あらかじめ予約を入れておいた日に療育センターや口腔保健センター(心身に障がいがある方や、地域の歯科診療所では対応が困難な方の歯科治療及び口腔保健指導など行う)にも一緒に行きましたが、夫はびっくりしていましたね。部屋に入ると泣き声や奇声が聞こえ、今まで目にしなかった現実を知ったのかもしれないです。

 

その後、娘のお世話をするために夫が会社を退職し、時間や働き方の自由がきく仕事に転職。今まで私がひとりで娘を療育センターに連れて行きましたが、夫も積極的に療育センターにつき添うようになりました。

 

── 旦那さんの転職や子育ての関わり方の変化に伴い、長谷部さんの生活スタイルも変化しましたか?

 

長谷部さん:夫が娘を見てくれるようになったので、私もそろそろ仕事復帰をしようと外に出るようになりました。ただ、不思議なもので外に出ても子どもが気になる。今までずっとひとりの時間が欲しいし、家から離れたいと思っていたはずが、外に出たら今、子どもはどうしてるかな。ご飯はちゃんと食べられているのかなって母性的な部分が出てくるんです。不思議ですね。

 

夫が娘とふたりで過ごす時間が増えても、最初は驚くほど夫に懐かなかったし、寝かしつけも上手にできず、夫もしばらく大変だったと思います。いっぽう、私は少しずつ気持ちに余裕ができて、母として求められているような喜びも感じましたし、少しずつ家の中が変わっていったと思います。

 

── その後、地元の保育園に入園し、小・中一貫校の学校に入学。今年の3月に中学校を卒業しました。現在15歳になった娘さんを見てどう感じますか?

 

長谷部さん:娘がダウン症とわかったとき、障がいがあるからできないと思い込んでいたことの半分以上ができました。もちろん周りの協力や助けもありましたし、小学校では普通学級と支援学級でどうやったら友だちとコミュニケーションを取りながら一緒に過ごせるかなど、その都度学校とも相談をしてきて、随分と助けられたと思います。

 

この3月に中学校を卒業しましたが、既成概念にとらわれず新しいことにもどんどんチャレンジしたいですし、娘が充実した人生を過ごせるよう進んでいけたらと思っています。

 

 

PROFILE 長谷部真奈見さん

慶應義塾大学法学部法律学科卒業後、 JPモルガン証券に入社。投資銀行部門にて、M&A(企業の合併・買収)のアドバイザリー業務に携わる。ニューヨーク本社にて勤務中、2001年「9.11世界同時多発テロ事件」に遭遇したことを機にテレビ局へ転職。報道番組の記者兼キャスターを務め、現在はフリーアナウンサーとして活動中。2008年8月に第一子を出産して1児の母。

 

取材・文/松永怜 写真提供/長谷部真奈見