文科省は公立小中学校の授業時間を5分短くし、各学校が自由に使える時間を作るべく検討を進めています。現場の裁量拡大を目指す動きは、どのような影響があるのか。現場の声を取材しました。

現場への影響は

文部科学省は、公立の小中学校の授業時間を見直し、5分ずつ短くする方向で検討を進めています。年間の授業時間数は変えず、公立の小学校では45分から40分授業に、中学校では50分から45分授業になり、短縮した時間は年間で85時間になるといいます。

 

小学校の教室
小学校の教室のイメージ

この時間を使って行う活動は各学校に委ねられる方向で、その背景には、教育環境や学力の地域格差を現場への裁量を増やすことで埋めようとする狙いがあります。この動きを、現場の先生はどう受け止めているのでしょうか。

 

神奈川県の公立小学校で17年間の教員歴がある鈴木洋二さん(仮名)は、授業時間が短くなることで、経験が少ない先生への負担が大きくなるのではと話します。

 

「授業を短くするとなると、特に先生になりたての方は大変だと思います。みなさん一度は経験があると思うのですが、きっかり45分で終わらずに休み時間になっても授業を続ける先生もいますよね。授業はある程度の経験がないと組み立てられないので、慣れていないと40分で授業を行うのは大変だと思います。そのための準備も必要になってきますし、現場はすでに忙しいのに、新たな対応に追われることは目に見えています」

 

また、鈴木さんは授業内容への影響も懸念しています。

 

「私だったらまず、説明の時間を減らすと思いますが、最低限教えなくてはならないことはあるので、その次に子どもたちの話し合いの時間が短くなっていくと思います。時間が減っても、能力のある先生は受け身でつまらない授業にならないよう工夫できると思いますが、個人差が大きくなってくると思います。

 

プリントの配布と説明だけでも5分間あっという間に過ぎていきますし、行事の度にさまざまな決め事が出てきます。先月の卒業式もそうですが、「呼びかけの割り振りはどうするか」などの役割分担を決める時間も必要です。授業を少し使ってその時間に充てることもあるので、毎授業、ストップウオッチで測ったように決まった時間で授業を行うのは不可能です。時間を短くするのは個人的には反対です」

 

授業を5分短縮したことで生まれる年間85時間での活動は各学校に委ねられる方向ですが、鈴木さんは、横並びで物事を決めることが多い学校ならではの負担があると話します。

 

「担任の先生が、読書や漢字練習など、自分のクラスで行うことだけを決めるならばあまり負担はないのですが、学校というのは横並びのことも考えなくてはいけないので、学年や学校単位ですることを揃える必要があるでしょうね。そうなると、先生同士の話し合いの時間はいつ取るのかと思ってしまいます。「学校に応じた活動を」というのは、聞こえはいいですが、現場の負担は増えるだけだと思います。

 

授業中のイメージ

何か新しいことを始める時はいつでも大変です。過去の例で言うと、総合的な学習の時間やプログラミング教育が導入されたときも大変でした。教材研究もそうですし、それぞれの地域で特色のあることをと言われても、そもそも県外出身で地域の特性を知らない先生も多いです。地域の方との連携も必要になってきます。

 

学校の先生が見えるところ以外でいかに仕事をしているかを知ってほしいです。会議も多いですし、放課後も外部と連携や保護者への対応、教材研究にも追われています。極端な話、すべてを断って帰ることもできますが、根が真面目な方が多いので、残業をしたりストレスを感じたりして辞めてしまう方が多いのも現状です」

 

鈴木さんは新たに何かを始める際には「何かをやめる必要」があるといいます。

 

「現状、文科省が考えていることは、ただ足し算が繰り返されているだけです。新しいことを導入するなら何かをやめないと、現場への負担は増え続けるだけ。授業を5分減らして、新たなことを考える必要があるというのをわかってほしいと思います」