出荷量10倍のヘルメットも
ヘルメットの着用を促すため、安全性を担保しながら見た目に工夫を加えた商品を開発し、出荷量を伸ばしている企業があります。
大阪府にあるヘルメットメーカー、オージーケーカブトでは、2019年から帽子のようなヘルメットの販売を始めました。開発部の上辻友美さんは、開発のきっかけには、高齢者の自転車事故による致死率の上昇と、車での事故が多発した社会背景があったと話します。
「当時、高齢者が運転する車の事故が多発し、免許返納に関する話題が多く取り上げられていました。免許を返納したあとで電動アシスト付き自転車などに切り替える方は、必ずヘルメットをかぶってくださいと警察も呼びかけていましたし、弊社にも『高齢者向けのヘルメットはありますか』といった自治体からの問い合わせもありました。
従来のいわゆるスポーツタイプのヘルメットは、特にご高齢の女性が着用することに抵抗があるというご意見もありまして、高齢化がさらに進んで自転車を利用する方が増えることも見込んだうえで、抵抗なく着用できるヘルメットを作ろうという思いで開発がスタートしました」
帽子のようなヘルメットは、ヘルメットの上に布の帽子カバーをつける構造で作られています。開発には4〜5年かかり、これまで定められていなかった外側の布に対する規格の整備も必要だったそうです。
「弊社ではすべて国内の安全基準を満たすSGマーク認証を取得したヘルメットを販売しているのですが、これまで自転車用ヘルメットのSG基準には、ヘルメットの外側を布で覆うことに対しての明記はなく、認証機関の担当者とも協議を重ね、ヘルメットを布で覆った際にも安全性を保つ基準を設けていただきました。転倒して路面とヘルメットが接触した際に、布があることによって首などへの負担をかけないための基準を作っていただいて、弊社ではそれに合った帽子カバーを作っています。
また、転倒した際の衝撃を吸収するため、ヘルメットには厚みが20ミリほどあるのですが、どうしてもその厚みによって頭が大きく見えてしまうので、いかに自然に見えるように設計するかも試行錯誤しました。特にツバの部分は、衣装的な要素を保ちながら視界を確保するための基準をクリアするのが非常に難しかったところです。切り返しを斜めに入れるなど、視覚的にコンパクトに見えるような工夫もしています」
ヘルメットの着用が努力義務化となった昨年4月以降は、自転車用ヘルメット全体の出荷量が3倍となっているほか、高齢の女性をメインターゲットにした帽子に見えるヘルメットの昨年4月の月間出荷量は約10倍になったそうです。現在は、20〜30代向けの新しいモデルも発売し、人気を集めています。
着用の際は安全なヘルメットを
売り上げが好調ないっぽうで、新たな問題が起きているといいます。類似品の増加です。
「弊社の商品と非常によく似たブランド名をつけたヘルメットがインターネットなどで販売されています。そういった商品は、ブローカーが海外製のヘルメットを販売しているケースが多く、メーカーが直接、販売しているものではありません。
自転車用ヘルメットに求められる安全基準を満たしていないものもありますし、衝撃を吸収する発泡スチロール(ライナー)がまったく入っておらず、ヘルメットの外殻(シェル)だけの、非常に薄いものもあります。販売する側も安全性に対する判断がつかず、そのまま売られているのが現状です」
また、自転車用のヘルメットの着用義務化がスタートした去年4月以降は、これまでになかった内容の問い合わせも相次いでいるといいます。
「これまで一般の方から基準に関する問い合わせはあまり多くなかったのですが、『これは自転車に適したヘルメットの基準ですか』というような、弊社の商品ではないものに関する問い合わせが多くあります。
弊社の商品はすべて、第三者機関による衝撃吸収テストなど、厳しい試験をクリアした国内の安全基準を満たしたSGマーク/JCFマーク認証品を販売していますが、ヘルメットには、ヨーロッパのCEマークや登山用、カヌー用などさまざまありまして、非常にわかりにくいと思います。海外基準の商品を着用する場合は、必ず衝撃を吸収するヘルメットの厚みの部分を見ていただきたいと思います。
せっかく着用していただくなら、しっかりと安全を確保できるものを選んでいただけたらと思っておりますので、各機関と連携しながら正しい情報を伝えていくということへの対応に追われています。
ヘルメットを着用したことで守られた命があるという情報は多数寄せられていまして、メーカーとしてもその重要性を身に染みて感じています。誰もが加害者にも被害者にもなりうるという意識を持っていただいて、自分のためだけではなく、家族を守ることにもつながるということへの啓発を続けていきたいと思っております」
取材・文/内橋明日香