女優の川上麻衣子さんは、中学校の同級生と30歳で結婚し、約4年間の結婚生活を送りました。その間、子どもを望んでいましたが妊娠に至らず、養子縁組も考えていたそうです。「子を持つこと」への悩みやジレンマ、またその後、「猫との共生」をテーマにした一般社団法人「ねこと今日」を立ち上げた経緯を伺いました。(全4回中の3回)

選択肢が多い時代だからこその「子どもを持つこと」への悩み

── 30歳で結婚されて、生活はどのように変わりましたか?

 

川上さん:女優業が忙しい時期ではありましたが、「子どもがほしい」という気持ちもあり、長期間拘束される舞台などのお仕事は控えていました。たくさんの仕事を受けるよりは、のんびりできる時間も作りつつ、「選りすぐりのものに出る」という感じでしたね。志村けんさんとの深夜番組をレギュラーで出演し始めたのも、ちょうどこの頃です。

 

私の周りでは、「30歳をすぎたら不妊治療を受ける」という人が多かったのですが、私は自然に任せようと考えていました。結婚して3年経っても妊娠には至りませんでしたが、それでも「不妊治療をしよう」とは考えませんでした。

 

映画撮影の様子。ドラマや映画の撮影で忙しい日々が続いた
映画撮影の様子。ドラマや映画の撮影で忙しい日々が続いた

──「養子縁組」を考えたこともあったそうですね。

 

川上さん:たまたま身近に養子縁組をしていた人がいたので、制度について調べたことがありました。世の中には親を求めている子がたくさんいることを知り、「私で力になれるなら」と前向きに考え出しましたが、「夫婦のどちらかが仕事を辞めなければいけない」など、条件が厳しくて。当時の私は30代。まだ仕事も現役でやっていきたい気持ちが強かったため、諦めるしかありませんでした。

 

── 当時、悩まれていたことをお聞かせください。

 

川上さん:離婚後も、「子をもつこと」については考え続け、40代半ばが一番思い悩んだ時期でした。今は卵子を凍結して保存することができますし、40代で高齢出産される方も少なくありません。選択肢が増えた時代だからこそ、「諦め」をつけるのにも時間がかかったように感じています。

 

「産む」のか「産まない」のか。自分の人生がどちらに進むのかわからない中で日々を過ごしていましたが、45歳を過ぎた頃、「産まない人生になるんだ」と、ようやく踏んぎりがついたんです。その瞬間、長年悩んでいたことに区切りをつけられて、気持ちが楽になった気がしました。

 

撮影現場でのワンシーン
撮影現場でのワンシーン

その後は、「自分のやりたいこと」に集中できるようになっていきました。50歳の誕生日には、「自分のお店を開こう」という気持ちになって、東京・谷中の街に、自身がデザインするガラスやスウェーデンの暮らしのデザインを中心としたセレクトショップ「SWEDEN GRACE」をオープンしました。

10代の頃から身近にいた「猫」のための活動をスタート

── 52歳の時に一般社団法人「ねこと今日」を立ち上げましたが、当時の思いや設立時のエピソードをお聞かせください。

 

川上さん:50代に入って「自分の得てきた経験を社会に役立てたい」と考えるようになり、一番身近な存在の「猫」のための活動をしてみようと思い至ったんです。私は、ひとり暮らしを始めた18歳の頃から、猫と一緒に生活し、これまで5匹を看取り、今は2匹の猫と暮らしています。「人と猫の共生を考える」というテーマのもと、心地よく猫と暮らすための情報発信をしようと決意し、2018年に「ねこと今日」を設立しました。

 

50歳の時に東京・谷中にセレクトショップをオープン
50歳の時に東京・谷中にセレクトショップをオープン

── 保護猫の譲渡会も定期的に開催されていますね。

 

川上さん:現在は、1か月に2回のペースで譲渡会を開催しています。「ねこと今日」の設立時、サロンも開設して講座やイベントの開催を予定していたのですが、同じタイミングでコロナ禍に突入してしまって。対面での開催を諦め、リモートで活動を進めていた時、保護猫のボランティア団体から「サロンで譲渡会をやらせてほしい」という申し出を受けました。その後、感染予防対策をとりながら譲渡会を定期開催するように。現在までに、約1000匹の保護猫に、新しい家族とのご縁を繋ぐことができました。

 

コロナ禍では、私自身、子猫を一時的に預かって育てる「ミルクボランティア」を行い、3匹の子猫を育てました。今は、3匹とも引き取ってくださる里親さんが見つかりひと安心しています。たまに写真を送ってきてくださるのですが、3匹とも元気に過ごしているようです。今後も、猫と人が共生できる環境づくりのための情報発信や活動を続けていきたいと考えています。

 

今年2月には松屋銀座で個展を開催
今年2月には松屋銀座で個展を開催

 

PROFILE 川上麻衣子さん

女優。1966年、スウェーデン・ストックホルムで生まれ、幼少期はスウェーデンと日本を行き来する。1980年にデビューして以降、ドラマや映画、舞台など幅広く活躍。20代で吹きガラスを始め、現在ではガラスデザイナーとして隔年で個展を開催。2016年に台東区谷中にスウェーデン暮らしのデザインを中心としたセレクトショップ「SWEDEN GRACE」をオープン。2018年に一般社団法人「ねこと今日」を立ち上げ、イベントや譲渡会を開催している。

取材・文/佐藤有香 画像提供/川上麻衣子