「偉い人が同席する」「大勢の前で発言する」…そんな場面を前に「あれ、なんかお腹が…」とトイレに駆け込みたくなる人もいるでしょう。「まいど、まいど…なんで?」素朴な疑問に医師の工藤あきさんが「対策」を含めて解説します。

「腸は第二の脳」ストレスホルモンが腸に届く

── 先日、大事な会議に向かう電車の中で、突然、お腹が痛くなって困りました。通勤や通学中に電車に乗ると突然お腹が痛くなったり、テストや会議など大事な場面の前に限ってお腹を下したりするケースを耳にしますが、病気なのでしょうか?

 

工藤先生: 検査をしても腸そのものに異常がみられないにもかかわらず、習慣的に便秘や下痢といった便通の異常を繰り返すようならば、「過敏性腸症候群(IBS)」かもしれません。IBSが起こるのはストレスがおもな原因だといわれています。

 

ヨーグルト
下痢や便秘の原因に?過敏性腸症候群(IBS)を起こす恐れのある食べ物1(ヨーグルト)

── 腸に異常があるわけではないのに、どうしてストレスや緊張でお腹が痛くなるのでしょうか?

 

工藤先生: 脳と腸、そして腸にいる腸内細菌は「脳〜腸〜腸内細菌相関」といって、実は、腸は「第二の脳」といわれるほど、脳と深くかかわりがあるんです。

 

不安やストレスを感じると、脳からストレスホルモンが分泌されて、神経を通じて消化管を通じて腸へ届きます。すると、知覚過敏が起きて痛いと感じてしまうのです。

 

── 腸自体は健康なのに、腸が痛いと感じる信号が出ているから痛いと感じてしまうと。

 

工藤先生: そうなんです。また、ストレスホルモンによって大腸の収縮運動が盛んになり、便が大腸を通過する時間が短くなって下痢を起こしたり、逆に、収縮で腸管が細くなって便秘を起こしたりします。

 

さらに突然の腹痛や下痢・便秘はストレスになります。「また会議の前にお腹が痛くなったらどうしよう」と新しいストレスが生まれ、脳からのストレスホルモンがまた腸に届いて…という悪循環も起こってしまいます。

日本人の10~15%は緊張でお腹に異変が!?

── IBSはどういった方がなりやすいのでしょうか?

 

工藤先生: IBSには大きく分けて「下痢型」「便秘型」、下痢と便秘が時々で起こる「混合型」の3タイプがあります。その他、どれにも分類されない「分類不能型」もあります。

 

下痢型は、男性に多いのが特徴です。また、役職が高い人、高収入の人に多いとされています。大事な会議や意思決定の前に、急な腹痛であわててトイレに駆け込むといったケースが考えられますね。便秘型は、女性に多く、なかでも20~40代に多くみられます。

 

── 急にトイレに駆け込む心配はないにしても、お腹に不快感をずっと抱えて生活するのは苦痛ですね。

 

工藤先生: 大人になってから発症するケースもありますが、子どものころから同様の症状があったという方もいらっしゃいます。テストや発表会、運動会など緊張するシーンでよくお腹が痛くなっていたと答える方は多いです。また、遺伝的な影響もあると考えられています。

 

日本人のおよそ10〜15%がIBSであるともいわれていて、決して珍しい病気ではなく、ストレスを抱えやすい現代社会では、誰もがなりえる病気ともいえるでしょう。

腸活が逆効果?お腹グルグルを引き起こす意外な食べ物

── IBSはどうやって治療するのでしょうか?

 

工藤先生: 根本的な治療法はなく、下痢型なら下痢止め、便秘型なら便秘薬といった薬での対処療法になります。お腹の症状が大きなストレス要因になって悪循環を起こしているときは、不安を取り除く薬を使うこともあります。

 

ただし、加齢とともに患者数も減る傾向にあり、環境が変わってストレス要因から離れたり社会との向き合い方が変わるなかで、いつの間にか治るケースもあります。

 

── ストレス要因からいますぐ離れるわけにもいかないこともあります。症状をおさえるために何かできることはありますか?

 

工藤先生: 多くの病気と同じく、規則正しい生活、食事、睡眠、適度な運動が改善の基本です。また、IBSの食事療法として「低FODMAP(フォドマップ)食」が近年注目されています。

 

FODMAPとは、発酵性の4つの糖類(オリゴ糖、二糖類、単糖類、ポリオール)のことです。これらの糖類が含まれる高FODMAPの摂取を控えることで、IBSの症状が軽減したという研究結果が、欧米を中心に報告されています。

 

高FODMAP食品には、小麦、豆類、納豆、ごぼう、牛乳、ヨーグルト、クリームチーズ、りんご、すいか、アスパラガス、はちみつ、きのこ類、さつまいもなどがあります。

 

── 意外にも、納豆やヨーグルトをはじめ、腸によさそうな食品が当てはまるんですね。

 

工藤先生: そうなんです。高FODMAP食には一般的に腸内環境によいとされる食べ物が当てはまります。腸内細菌を元気にする食べ物であるがゆえに、人によっては腸内で発酵をがんばりすぎて多量のガスや張り、下痢や便秘といったお腹の不快感を強くしてしまうのです。

 

── 腸内環境を整えようとして積極的に食べていたものが、逆効果なこともあるんですね。

 

工藤先生: ただし、どの食品がお腹に悪い影響を及ぼすのかは人によって異なるため、高FODMAPの食品をすべて避け続けるのではなく、自分のお腹と相性の悪い食品を探していくのが、低FODMAP食の目的です。

 

まずは3週間ほど高FODMAP食を制限して、お腹の調子が良くなるか試してみましょう。改善がみられそうならば、次は高FODMAP食を1種類ずつ試して相性の悪い食品を特定していくと良いかと思います。

 

IBSは治療法がないことから、長くつき合わなければいけないかもしれません。症状を悪化させずにうまくコントロールしていくためにも、一度医師に相談することをおすすめします。

 

PROFILE 工藤あきさん

消化器内科医・美腸・美肌研究科。一般内科医として地域医療に貢献する傍ら、腸活×菌活を活かした美肌・エイジングケアにも尽力。テレビ、本、雑誌などメディア出演多数。2児の母。

 

取材・文/大浦綾子