「断捨離」と聞くと、「とにかくモノを捨てること」というイメージを持つ人も多いかもしれません。でも、断捨離の生みの親・やましたひでこさんの考えは少し違います。「一つひとつモノに向かい合い、一つひとつのモノとの関係を問い直しながら、自分を取り戻していくのが断捨離。つまり人それぞれの断捨離があるのです」。

 

そんなやましたさんの元で学んだ断捨離トレーナーの自宅の変遷をまとめた『小さな断捨離が呼ぶ幸せな暮らし方』が話題になっています。本書に登場する中場美都子さん(神奈川県在住/60代)と、監修をつとめたやましたさんにお話をうかがいました。

「家事は完璧にやらねば」「使えるモノはとっておかねば」

現在断捨離トレーナーとして活動する中場美都子さんも、断捨離との出会いによって人生が劇的に変わったひとり。

 

断捨離と出会う前の中場さんは「夫と2人の子の帰宅時間に合わせて、あたたかい食事を出すのが主婦の仕事と思っていた」そう。時間に追われ、日々の家事をこなすのが精いっぱいの毎日でした。

 

現在は人生の楽しみを見つけ生き生きと暮らす中場さん

そんな折、中場さんは心臓に不調を感じ、病院へ駆け込みます。急性の心臓疾患と診断され、突然の安静生活へ。

 

「実家の母の手伝いもあり、家事も最小限になりました。何もできないストレスからネットショッピングにのめり込み、購入したモノがずんずん蓄積していって、またイライラ…。家を片づけられないダメ主婦という思いが強くなっていきました」(中場さん)

 

家の中がモノで空間が閉ざされていくうちに、中場さんの感性も閉ざされてしまったのです。

断捨離によって「捨ててはいけない」の呪縛が解けていった

そんなとき、ネットで目にしたのが断捨離セミナー。思いきって「断捨離」の生みの親である、やましたひでこさんに会いに行くと、その言葉にうれしい衝撃を受けます。「いつか使えるの“いつか”は来ない」「使えるけれど使わないモノは捨てていい」──。

 

足どり軽く帰途につくや、どんどん捨てていきました。モノが減るにつれ、元気になっていきます。すると、「家事を頑張らねば」も思い込みだと気づいたのです。

 

それらの「思い込み」を外していくと、中場さんの暮らしは、一転。以前は、あれだけ嫌で、「なんで私だけが…」と思っていた家事をするのが楽しく、毎日ごきげんにこなすように。“汚部屋”状態だった家が、いつのまにかすっきり片づいていきました。

リビング&ダイニングの変化

以前のリビング&ダイニングでは、脱いだ服や使ったタオルは、イスやソファにかけたまま。本やパソコンもテーブルに置きっぱなし。床には、靴下とブランドもののバッグといっしょにごみも散乱。テーブルには、飲みかけのペットボトルや、ジャムなどの容器も置いたまま。ごみは、ごみ袋に直接投入して、ごみ箱代わりにしていたといいます。

 

モノが散乱した以前のリビング&ダイニング

断捨離を続けていくなかで、お家のリフォームに挑戦することにした中場さん。その際、断捨離の自由自在な考え方が役立ったといいます。まず、リビング&ダイニングで「ダイニングテーブルとソファを一体化させよう!」とひらめきました。これは断捨離で日頃から思考のトレーニングをしていたことが生かされたそう。「夫も最初は抵抗していましたが、食後にソファでくつろいで大正解!と喜んでいました」。

 

「レストランでも椅子席よりも壁のソファ席のほうがなんとなく落ち着いて、その席を選びたくなりますね。明るくていいですね」とやましたさんも賞賛してくれました。

 

オットマン付きのチェアを1脚だけ配置したテレビコーナー

テレビの前にはオットマン付きのチェアを1脚だけ。ソファセットを置かないことで、空間が広がりました。部屋の角という角には植物が。「丸くて肉厚の葉っぱは金運が上がると聞いて置いてます」(中場さん)

 

ダイニングチェアをソファタイプに一新しガラリとイメージチェンジ

食後、ほろ酔いでウトウトする夫のために、ダイニングチェアをソファタイプにチェンジ。座り心地を求めて出会ったのが、ポルシェの日本人デザイナーによるソファでした。「汚れやすいかも」とためらったアイボリー色も「明るい空間にしたい」という希望を優先しました。

 

断捨離により、心が開放され明るくて心地よいソファ席が完成

「一体型にするアイデア」は断捨離で脳トレしていたからこそ実現できたこと。大人数にも対応でき、孫にも好評だそう。高さ調節のできるテーブルは、食事タイムは高めに、くつろぎタイムは低めに。

 

「以前、カーテンを外せないのは心の中に閉じているものがあると、やましたさんに言われて…。断捨離してオープンマインドになったので、思いきってカーテンを外しました。でも家具の位置は固定せず、日々暮らしながら、改善点に気づいたら変えていけばよいと思っています」(中場さん)

キッチンの変化

断捨離前のキッチンでモノと向き合うなかで、「人は飽きるもの。買ったときと今の自分は違う」と気づいたという中場さん。食器棚を断捨離し、器はすべてキッチンの引き出しに収めることに。

 

以前のモノが溢れるキッチン
「入るだけ入っていた」大きな食器棚。外には洋服がハンガーで吊るされ、隙間には雪崩が起きそうなモノの山が

大量の断捨離に取り組むなかで、特に苦労したのが「思い出の食器の断捨離」。やましたさんに相談すると、「それでもごめんね、楽しませてもらったとお別れするしかない」との答え。心を決め、自分が使いたい食器、気持ちよく使える食器に絞り込んでいきました。

 

「お金は気持ちよく使おう」というやましたさんに背中を押され、壁を抜いてオープン型のキッチンにリフォームしました。

 

大皿コーナーには青が美しいバリのジェンガラやユニークなデザインのミナペルホネンなど、お気に入りの食器を4枚だけしまっています。

書斎の変化

せっかくのお掃除ロボットも床置きのモノたちに防害されて活躍できず、ホコリをかぶって部屋の隅っこに放置されていました。

 

以前は活躍の場がなかったお掃除ロボット

それが断捨離によって明るく広々とした空間に。二面採光の部屋には、書斎机に書棚、テレビ、コーヒーメーカーもそろっていて、気づけば一日中いることもあるそう。もとは寝室だったため「書斎らしい壁紙」に自らの手で張り替え、色を塗ることを検討中です。

 

窓からの光の入り具合によってフレキシブルに座る位置を変えて。椅子はリクライニングもできる背面メッシュのセイルチェア

「自分の趣味は変わるので、それに合わせて部屋を変えていくと気分も変わります」と中場さん。書斎でのリモートワークには愛猫もたびたび参加するのだとか。

 

「大きなテーブルは書類をめいっぱい広げられていいですね。終わったら机の上をゼロに戻せば、次の行動が生まれます。たいていのお宅はずっと何かが乗っていて、動きを制限していますから」(やましたさん)

廊下の変化

廊下につっぱり棒を渡し、洋服をズラリと掛けるアイデアを当時は自画自賛していました。「でも、つっぱり棒を断捨離したら1枚の洋服も残りませんでした」と中場さん。

 

かつてつっぱり棒があった廊下は、今ではすっかりシンプルな空間に落ち着きました。

 

おしゃれな絵が映える、明るい空間

「つっぱり棒はアウトですね。つっぱり棒が不安定だし、ブラブラ下がっているのも不安定。そうやって自分の住まいを物置き化してしまう家の多いこと。結局、つっぱり棒を外したら洋服も必要ないことに気づくのね」(やましたさん)

小さな断捨離が「人生の愉しみ」を見つけるきっかけに

断捨離と出会い、その後も断捨離を続けた中場さんの断捨離歴は、なんと12年。現在では、断捨離チーフトレーナーとして、全国の人たちに断捨離を指南しています。

 

「断捨離を続けて 私が取り戻したのはお部屋の空間だけではありませんでした。『私の人生このままで終わってしまうのかな…』と。自分のやりたいことも見つからず、ただただ“いい妻”“いい母”と思われたいと、必死で努力して家事をこなしていても、なぜか満足感はなく、いつも焦燥感に苛まれイライラする日々でした。

 

やましたひでこさんの断捨離セミナーに参加したのをきっかけに、本格的に断捨離を続けること12年目。 断捨離を続けることで、心からの笑顔溢れるごきげんな毎日を取り戻し、家族とも仲良くなっていました」

 

監修者 やましたひでこさん

一般財団法人 断捨離(R)代表。学生時代に出逢ったヨガの行法哲学「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を日常の「片づけ」に落とし込み、だれもが実践可能な自己探訪メソッドを構築。断捨離は、思考の新陳代謝を促す発想の転換法でもある。処女作『断捨離』に続く『俯敵力』『自在力』(いずれもマガジンハウス)の三部作をはじめ、著作・監修を含めた関連書籍は国内外累計700万部を超えるミリオンセラー作家。近著に『モノが減ると「運」が増える 1日5分からの断捨離』『1日5分からの断捨離 モノが減ると、時間が増える』(ともに大和書房)もロングセラーに。台湾・中国でもベストセラーを記録中。『小さな断捨離が呼ぶ幸せな暮らし方』(主婦と生活社)の監修もつとめる。