38歳でモデルデビューを果たし、その後、数多くのファッション雑誌やイベントで活躍してきた稲沢朋子さん。47歳では俳優としての第一歩を踏み出し、さらに活動の幅を広げました。「挑戦に年齢は関係ない」ということを体現してくれる稲沢さんに、俳優デビューの経緯と今後の展望について伺いました。(全3回中の3回)
モデルとは異なる表現を求めて俳優デビュー
── 俳優としての活動を意識し始めた時期と経緯について教えてください。
稲沢さん:「演技をやってみたいな」と考え始めたのは、子どもたちが独立した頃。子育てがひと段落したことで、自分のことを考える時間が持てたことがきっかけとなりました。マネージャーに伝えたところ、「合う役があればやってみますか?」と聞かれて、「やります!」と即答。その後、初めての役をいただいて、俳優としてデビューすることになりました。
── 俳優として立つ演技の世界はいかがでしたか?
稲沢さん:甘かったですね…(笑)。モデルと俳優とでは、表現の仕方がまったく違いました。モデルは「自分を表現する仕事」ですが、俳優は「役を表現する仕事」。自分を使って他者の人生を生きることを求められました。たとえば、人を殺めたことがないのに「殺人犯」の心境にならなければいけないこともあるんです。「どうすれば役の心境になれるのか」で四苦八苦していました。
最初の役は、主演の方の同級生役でした。撮影現場では、スタッフとカメラの多さに圧倒。モデルの撮影現場では、カメラマンやスタッフの皆さんが雰囲気をつくってくれて、自然と笑顔を出せるのですが、ドラマの現場はキリッとした緊張感で満ちていて。そのなかで役の感情を表現しなければいけません。撮影の後は反省点だらけで、正直、凹みました。今は演技のレッスンに通いながら勉強中です。ゴールのない世界だと思うので、努力を続けて、私にしかできない表現を追求していきたいです。
「無理をしない」「何もしない」が基本
── 40代後半で新しいチャレンジをする際、生活面で変えたことや、時間の使い方で意識していたことはありますか?
稲沢さん:無理をしないようになりました。40代後半になると、体力が落ち、記憶力が落ち、疲労回復にも時間がかかる。年齢による変化をありありと感じるようになり、必然的に、仕事後や休日の時間の使い方を見直すようになりました。若い頃は、仕事の後に予定を入れることも多かったのですが、今は「今週の予定」を念頭に置いてスケジュールを組むように。「こんなに詰め込むと体力がもたないぞ」と、余裕を持った時間の使い方を意識しています。
── 無理をしないことで自分のペースを保っているのですね。休日はどのように過ごしていますか?
稲沢さん:休日は、「何もしない」が基本です。自分を甘やかす時間をたっぷりとつくり、動画を見たり、好きなものを飲んだり食べたりして過ごしています。今までは「休日は外に出ないともったいない!」という考えでしたが、年々、「何も考えなくて良い時間を持つことが幸せ」と感じるようになってきました。
それから、体力と筋力低下を補うために、今年に入ってボクシングを始めました。筋肉がつくと、頑張った自分を褒めてあげられるし、継続への意欲にもつながります。のんびり過ごす時間とともに、自分磨きの時間も大切かなと思っています。
「失敗をしない」ではなく「失敗を繰り返さない」
── 俳優業について、お子さんからは意見や感想をもらっていますか?
稲沢さん:子どもたちは、演技をしている私を見るのがまだ照れくさいらしいです(笑)。でも、「あの時の表現は、まだ出しきれてないよね」なんて指摘されることもあり、「次は出しきってやる!」とやる気に火をつけられることも。
子どもたちは今、私の手を離れ、自分の仕事を持って生計を立てるようになりました。先日、娘と息子3人で食事に行ったときには、「男気じゃんけん」をして息子に奢ってもらいました。子どもたちに「ごちそうさま」と言える、大人同士の関わり方に変わったことを実感していいます。
── 新しいチャレンジをする際、稲沢さんが意識していることを教えてください。
稲沢さん:「始めたい」と思ったときが始めどきだと考えています。失敗を恐れてしまう気持ちもわかりますが、失敗したらそれを肥やしにして、次へ活かせばいいと思うんです。だからこそ「経験」って素晴らしい。38歳でのモデルデビューも、47歳での俳優デビューも、もっと早く始めていたらよかったこともあるかもしれません。でも、何が正解かはわかりませんし、その時々で「今だからこそできること」ってあると思います。
失敗をしないように生きるよりも、失敗を繰り返さないように生きるほうが、人生は楽しいと思っています。経験から何を学ぶかに重きを置いて、今後も挑戦し続けていきたいですね。
PROFILE 稲沢朋子さん
38歳で雑誌『STORY』の読者モデルとしてデビューした後、専属モデルへ。42歳にはカバーモデルに抜擢され、40号分の表紙を務める。47歳には本格的に俳優としてデビューし、キャリアの幅を広げる。
取材・文/佐藤有香 画像提供/稲沢朋子