芸能界で長く活躍する人にある自分の持ち場。ただ、それは自分が主張したから得られるものでもないようです。水野裕子さんが芸能界きっての筋肉系女子タレントになれた背景を聞きました。(全4回中の1回)

 

上腕二頭筋がモリモリ!鍛え上げた水野さんの上半身姿

王様のブランチが「SASUKE」出演へのきっかけ

──「王様のブランチ」や「世界バリバリバリュー」(ともにTBS系)などのレギュラー出演などで人気タレントになり、抜群の運動神経で筋肉系の番組にも多数出演。昔からスポーツは得意だったのですか?

 

水野さん:とくに運動神経がそこまでよかったわけではないんです。ただ、田舎育ちで、子どものときに野山を駆けまわり、男の子に混じって泥まみれになって日が暮れるまで遊んでいました。

 

小学校ではミニバスケットボールとソフトボールを、中学校ではバスケ部に所属していました。ただ、とくに強豪校ではありませんでしたし、特別な記録や成績を残したわけでもありません。もともと体を動かすことは大好きなので、社会人になってからも、時間が空くと友人とスポーツを楽しんでいた程度です。

 

ですから、お仕事を通じて、自分の適性を見出して伸ばしていただいたと思っています。

 

── 筋肉系の番組に出演するようになったきっかけは、なんだったのでしょうか?

 

水野さん:2000〜2002年まで「王様のブランチ」のレポーターとして活動させていただいたのですが、私はアスレチックやスカイダイビングなど、「体を動かす系」の企画を担当することが多かったんですね。

 

そのなかで、「SASUKE」の体験レポートをしたのが、そもそものきっかけでした。そのときは、最初のエリアで失敗してしまったのですが、その後、ブランチとは関係なく、番組への出演者として呼んでもらえるようになりました。

 

鍛え上げられた美しい背中

当時、「王様のブランチ」のディレクターさんから、「水野は、体を動かしているときが一番イキイキしていていいね!感情を全身で表現するのが合う」と、言ってもらったことがあって、それがすごく嬉しかったし、自分にとって「しっくり」きたんです。

 

「王様のブランチ」は、毎週生放送があり、多いときは週に4~5日ロケに行くスケジュールで、スタッフの皆さんとはファミリーのような関係。だから、レポーターの女の子たちのことも本当によく見てくれて、それぞれの適性を見抜いて育ててもらいました。いまでも感謝しています。

 

── その後、筋肉系番組で大活躍され、「芸能界No.1女子アスリート」と呼ばれるまでになりました。

 

水野さん:球技や格闘技など、なにかひとつのジャンルで技術を競うものと違い、体を動かして走り回る、暴れ回るみたいなことは、子どものときからずっとやっていたので、自分に向いていたのでしょうね。持っていた能力を見出してもらい、それが当時の番組の趣向とマッチしたことで、いまの状況につながったんじゃないかなと思います。

 

ただ、面白いのは学生時代よりも社会人になってからのほうが、はるかに運動神経がよかったこと。「運動神経って、大人になってから伸びるんだ」と、自分でも驚きました。おそらく周りから期待してもらい、良い評価を得ることで、自分のなかでスイッチが入って花開いた部分が大きかったんじゃないでしょうか。

努力が報われないこともある「だから正しい努力をしたい」

── もともと運動好きで素養は十分あったけれど、周りから期待されて評価されることで、モチベーションが上がって、火がついた感じだったのですね。

 

水野さん:その後、栄養学の勉強をしたときにも感じたことですが、「やりたいこと」「向いていること」「やれること」は、本来バラバラ。でも、これが一致した人は、ものすごく幸せだし、実力を発揮できるものなんだなと納得しました。

 

── ある意味、「運」も大事ですね。

 

水野さん:そうですよね。ただ、そのためには、チャンスをつかめる場所にたどりつけるかどうかが、すごく重要だなと感じていて。あるとき、「成功している人たちって、どんなことをしてそこにたどりついているんだろう」という会話をみんなでしたんです。

 

そうしたら、ある大先輩が、「よくいわれる言葉だけど、努力は裏切らないなんてウソ。努力をしても報われないことはたくさんある。でも、努力すらしない人はスタートラインにも立てない」とおっしゃっていて、すごく納得しました。

 

ただ、むやみやたらと頑張るのではなく、「どうやったら報われるのか」を自分の頭で考え抜くことも大事だと。両方頑張らないとチャンスなんてめぐってこないからという言葉が、いまも私の胸に刻まれています。

 

だから、やりたいことがあれば、どんどん口にして周りに伝えてみる。やりたいことがわからなかったら、いろんなことにトライする。自分のなかで何がひっかかるのかは、実際にやってみないとわかりませんから。そうしたことを精力的に続けている人は、バイタリティにあふれていて魅力的だし、はたから見ても楽しそうですよね。

ネガティブで頑固な性格「40代のいま、変わろうと努力中」

── お話を伺っていると、すごくエネルギッシュで前向きな方という印象です。

 

水野さん:そう言っていただけることはありがたいのですが、じつはそんなことはなくて…けっこうネガティブなんですよ。結論の出ない問題をもんもんと考えて、堂々巡りを繰り返し、ストレスを抱えてしまうことが、よくあります。

 

でも、いつまでもそれに引きずられていると何も変化は起きないし、結論も出ないので、ひとしきり考えて答えがでなければ、いったん考えるのをやめる。そして、外に発信をして、自分の違う考えに触れるようにしています。

 

── それはなぜでしょう?

 

水野さん:40代になって感じるのは、歳を重ねるごとに自分の核となるこだわりがどんどん強くなって、思考が凝り固まってきている感じがするんですよね。ですから、あえて自分と違う意見に触れたり、他人の考え方を幅広く聞くことを意識的にしていかないとダメだと感じます。

 

もちろん、自分にとって大切なこだわりは持っていていいと思いますが、あまりにそれが強すぎたり、たくさん持ちすぎていると、年齢とともに「消せないシミ」のようになってしまう気がして。

 

いろんなことを許容できる、柔軟な思考の持ち主でいたいなと思っているのですが、私は、頑固で自分を曲げないタイプなので、このまま歳をとると、意固地なおばあちゃんになってしまいそう。歳をとるほど自分を変えるのが難しくなりますから、いまからコントロールしていこうと思って、努力しているところです。

 

「穏やかにものごとを捉えるようにしたい」のが、40代の目標。そのためにいま、意識的にやっているのが、「自分のネガティブ感情を言語化しない」ことです。

 

── よく「ネガティブ感情は言語化して吐き出すことでストレス解消になる」といわれますが、あえて「言語化しない」とは、なぜでしょう?

 

水野さん:ある人から、「文字化することで自分の中にその考え方を固定化してしまうということもある」と言われたことがきっかけです。

 

たとえば、他人の対応にイライラして、「こういうのっておかしくない?」と感じても、それを自分のなかで飲み込む前に、「なにか事情があるのかもしれない。自分にもそういうときってあるよね」と、ネガティブな言葉が頭をよぎる前に、反射的に上書きする感じです。

 

できるだけ自分のネガティブな感覚を文字に残さないようにしているので、いまは日記もつけていませんし、SNSでもそうした言葉はできるだけ発信しないようにしています。文字にして残されなければ、よほどのこと以外は忘れてしまいますから。

 

── そもそもなぜそれをしようと思われたのでしょう?

 

水野さん:わりと「イラチ(せっかち・気が短い)」なんですよ。だから、感情のまま言葉にして失敗してしまったこともあります。それを自覚しているので、ネガティブな感情や感覚を自分の中にため込んでいかないよう、意識しているんです。

 

PROFILE 水野裕子さん

1982年、愛知県生まれ。1998年、SONY乾電池のキャンペーンオーディションに合格し、芸能界デビュー。「王様のブランチ」(TBS)、「世界バリバリ☆バリュー」(毎日放送)「ザ・フィッシング」(テレビ大阪)など数々の番組の出演。「KUNOICHI」などのスポーツバラエティ番組で活躍し、“芸能界女性No.1アスリート”の異名をとる。釣り番組では国内外へのロケも多数。現在はNBA関連の番組やイベントでも活躍中。

 

取材・文/西尾英子 画像提供/水野裕子