60歳を目前にしたとき。ずっと専業主婦だった仲本律枝さん(66歳)は、まったくの未経験からビジネスの世界に飛び込むことに。きっかけは娘・千津さん(38歳)の気軽な誘いでした。(全2回中の2回)

 

「柄が素敵ですね!」母娘の起業で挑む「アフリカンプリント」の生地で作ったタベストリーとバッグを持った仲本さん親子

まさか59歳の私が起業する娘を手伝うなんて…

── 千津さんから「起業したい」という話を聞いたときは、どう思いましたか?

 

律枝さん:母親として「大丈夫かな?」と心配ではありました。とはいえ、娘は大学院時代からずっとアフリカについて勉強をしていたんです。これまで頑張ってきたことが、ついに開花するかもしれないと期待も感じていました。だから、起業については応援していました。

 

── 一緒に仕事をしようと誘われたときは、どんな気持ちでしたか?

 

律枝さん:一緒に仕事をするとはまったく考えていませんでした。娘からは「アフリカで作ったバッグを日本で売りたい」と聞いていました。すでにアフリカで商品を作り始めていると言っていたので「日本ではどういうふうに売るつもりなの?」と質問すると、「お金がなくて人も雇えないし、販売してくれる人がいないの」との答えだったんです。そのなかで「あ、お母さんがいるじゃん、手伝って」という感じで話が進んでいきました。

 

私には4人の子どもがいるのですが、ちょうど一番下の子が大学を卒業して家を出るタイミングだったんです。当時、私は59歳で、子育ても卒業してこれから何をしようか考えているところでした。だから、千津の話を聞いたときも「いいよ、手伝うよ」と軽い気持ちで返事をしていました。

 

── ちょうどタイミングも合っていたんですね。

 

律枝さん:もともとアルバイトでお菓子の販売をしたり、美術館で絵の展示や販売をしたりした経験もありました。商品検品の経験もあり、商品を可愛く見せてキレイにラッピングするのも、お客様とお話をするのも好き。娘の仕事の話は、私のこれまでのアルバイト経験も活かせるかなとも思っていました。

百貨店の「買い物ついでに」バイヤーに直談判

── みずからバッグを百貨店に売り込みに行く行動力もあるそうですね。

 

律枝さん:それは本当にたまたまです。娘のバッグを持って、夫と一緒に静岡伊勢丹に買い物に行ったんです。入口にポップアップ会場があったのですが、ちょうど初夏の気持ちのいい日で、「この会場にうちのバッグが並んだらどんなにきれいだろう」と感じました。

 

そこで、すぐにインフォメーションセンターに走って行き、受付の方に「ここでポップアップイベントをしたいんですけれど、どんなふうに進めればいいんですか?」と聞いたんです。隣にいた夫からは「そんなのムリに決まっている」と止められましたが(笑)。

 

でも、タイミングよく2階にバイヤーさんがいらっしゃいました。お店としても、私が営業としてではなくお客様として来ているので、そっけない対応はできなかったみたいです。バイヤーさんがわざわざ私のところまで来て、話を聞いてくれました。

 

商品はウガンダの現地スタッフの手作り

「アフリカで現地の女性が作っているバッグ」というストーリー性のある商品が、百貨店側も求めているものだったようです。後日、娘が作った営業資料を送ったら、企画が通ったと連絡がありました。

 

娘が静岡県の各社にプレスリリースを流し、いろいろと取材を受けているタイミングでもありました。ポップアップイベント開催の2日前に、テレビで私たちを密着取材した番組が放送されたんです。その反響も大きく、商品もあっという間に売り切れました。そこから波に乗り、娘も会社に合流していまにいたります。

時間管理に人づきあい「専業主婦の経験はムダじゃない」

── 起業後はどんな仕事をしていますか?

 

律枝さん: 日本での実務作業はほぼ担当しています。全国の百貨店などに出店し、納品、ディスプレイ、接客などすべての作業をすることもあります。以前はひとりでは新幹線も飛行機も乗れなかったのですが、いまは当たり前に。自分にこんなにいろいろできることがあったんだ、と不思議です。

 

現在はオンラインストアも手がけていますが、まわりのスタッフはみんな若い。もともとは機械は苦手ですが、「律枝さん、やりとりはslackでお願いします」などと言われて、必死についていく感じです。

 

── 以前は専業主婦だったとのことですが、60代でガラッと生活が変わってどんな気持ちでしょうか?

 

律枝さん:「まさかこんなふうに人生が変わっていくとは!」と思う一方で、これまでの人生の集大成な気もします。専業主婦時代は4人の子どもの育児、家事、PTA活動と毎日めまぐるしい生活でした。そのときは、同居していた義母が「頼まれているうちが華よ、どんどん外に出なさい」と協力をしてくれました。

 

忙しい日々だったから、毎朝、その日やることの段取りを立てていました。私の母が魚屋を営んでいて、子どものころから「なにごとも段取りが大事」と教えこまれていたんです。それがいまも役立っています。

 

専業主婦から59歳で共同創業者兼代表取締役になった律枝さん

それに加えて、私の住んでいた地域は3世代で暮らしているお家がほとんどでした。地域と学校と子どもたちの3つの立場がうまくいかないと、地域自体が回りません。いろんなコミュニティに入って盛り上げる役目もありました。だから、いま接客をしていても、さまざまな年齢層の方の気持ちがわかる部分があります。

 

これまで自分が取り組んできたことは、すべてムダになっていないと実感しています。人間っていくつになっても変われるし、目の前にあることに一生懸命取り組むことで、未来につながるんだと感じています。

 

── 60代で新しい人生を歩んでいる律枝さんですが、今後はどんなことをしていきたいですか?

 

律枝さん:ずっと単身赴任をしていた夫が4月から戻ってきて、23年ぶりに夫と一緒に暮らしています。いずれ夫婦でウガンダに住んでみたいです。いま私は66歳ですが、60代からこんなに広い世界を見ることになると思いませんでした。こうしたチャンスを与えてくれた娘には、本当に感謝しています。

 

PROFILE 仲本律枝さん

大学卒業後に結婚し、30年近く専業主婦として家事や4人の子育てに従事。長女の千津さんに誘われ、「株式会社RICCI EVERYDAY」を設立。

 

取材・文/齋田多恵 写真提供/仲本千津