夜中に突然破水したニッチェ江上敬子さん。コロナ禍の出産で病院へ運ばれたものの、想像を超えた痛さと熱発、心拍の異常も感じたといいます。(全5回中の3回)

妊娠中は一瞬たりとも「幸せ」とはならなかった

── 2020年に第一子を出産されました。不妊治療もされたそうですね。

 

江上さん:不妊治療からちょうど2年ぐらいで妊娠しました。私は20代の頃、卵巣腫瘍のため卵巣をひとつ取っていて、30代で妊娠を考えたときは、多のう胞性卵巣症候群が発覚し、妊娠しづらい体だとわかりました。その後、不妊治療を続けてやっとの思いで妊娠できました。

 

妊娠がわかったとき、夫は「やった!」と喜びましたが、「まだ無事に子どもが生まれると決まったわけじゃないから」、と伝えました。不妊治療中に化学流産なども経験していたため、ぬか喜びだけは絶対すまいと思ったんです。

 

── 妊娠中はどんなふうに過ごしていたのでしょうか?

 

江上さん:ママ友から、胎動を感じるたびにお花畑にいるかのような気分になると言われましたが、私はまったくそんなことはなかったです。胎動でおなかが動くたびに、よし動いてるな!大丈夫と確認する。動かなかったら大丈夫かな。おい、おい、大丈夫?とお腹に声をかけてました。どれぐらいの間隔で動かなかったら問題があるのか、ネットで常に調べて、気にしていました。

 

やっぱり過去に流産したことが大きくて、一瞬たりとも幸せ~!みたいにはならかったです。私がもともと慎重な性格だったことも影響しているかもしれません。

すごく痛い!死にそう!突然の破水で心音も早く

江上敬子
息子さんを抱く江上さん

── 2020年9月に第一子を出産されました。初めての出産はいかがでしたか?

 

江上さん:深夜、自宅にいるときにいきなり破水してしまいました。慌てて病院に行き、おなかに赤ちゃんの心音を測るモニターをつけたら、子どもの心音が異常に速いんです。ずっとピーピーとなっていて。私は不安で仕方がなくて「先生ー!」と叫んでました。

 

── 旦那さんはそばにいたのでしょうか?

 

江上さん:夫はコロナ禍で立ち合いができなかったので家にいました。夫とは、陣痛が来ているときもテレビ電話で話していて、「すごく痛い!死にそう!」と盛り気味に言いました。夫は「だ、だ、大丈夫?看護師さん呼んだほうがいいんじゃない?」と焦り気味。

 

さらに、そのタイミングで私が39度の熱が出ていて。母体の熱が上がり、赤ちゃんがお腹の中で苦しくなっていたようで、看護師さんたちがアイスノンを持ってきて体のあちこちを冷やしてくれました。

 

私の体を冷やしても赤ちゃんはいっこうに生まれる気配はなく、急きょ、帝王切開に。

 

── 出産後、わが子を見たときはどんなことを思いましたか?

 

江上さん:子どもの顔を見た瞬間にボロボロと涙が出ました。まわりのお医者さんがみんな引くくらい、うわーと泣いて、よだれも鼻水も全部出ちゃって。嗚咽が止められなくて大変でした。子どもの顔が信じられないほどかわいくて、思わず「かわいい!」と叫んでしまったほどです。妊娠してから出産するまでの10か月間、1回も涙が出なかったんです。生まれるまでは何が起こるかわからない。ずっと気持ちが張り詰めていましたが、赤ちゃんの顔を見た瞬間に吹き飛びました。

 

── 旦那さんはどんな反応でしたか?

 

江上さん:看護師さんが夫に電話をかけて、すぐに病院に来てくれました。私は麻酔が切れたばかりでとにかく気分が悪く、夫の顔を見た瞬間に、顔にかかるほどの勢いで吐いてしまいました(笑)。夫が「おおっ!大丈夫か!?」となって。

 

それでも必死に赤ちゃんいるよと、夫に伝えました。子どもと対面したら、絶対、夫も泣くぞ!と思って期待してたのに、夫はわが子を抱っこして「おお!」だけ。思わず、泣けー!と思っちゃいました。

 

数か月後、夫婦ともども行きつけの居酒屋のマスターと話をする機会があったんです。私が出産したあと、夫がマスターや常連客に子どもが生まれたときのことを話していたそうで、夫が初めてわが子を抱っこした瞬間に泣きそうになったと聞いて、ちょっと満足しました(笑)。

生後2か月で保育園に預けると

江上敬子
箸上げを手伝っている様子

── お仕事にはどのタイミングで復帰しましたか?

 

江上さん:子どもが生まれてから2か月くらいからです。自宅近くの保育園にちょうど空きがあり、子どもを預けることができました。

 

2か月で復帰したことをブログに書くと、応援してくれるコメントもたくさんあるなかで、母親失格、かわいそう、子どもがかわいくないのかなど、ネガティブなコメントも多く寄せられました。もちろん子どもはかわいいし一緒にいたいです。でも、預けないと仕事ができないですし、子どものために貯金を残すのも親の役割として大事なことだと思っています。

 

また、保育園に行ってよかったと思うのは、まわりの子や保育園の先生たちからたくさん刺激をもらえています。

 

子どもと過ごす時間が限られている分、一緒にいる時間は濃いものになっていきます。仕事の時間は集中しつつ、仕事が終わったら早く迎えに行きたい。そんな思いでつい小走りで保育園まで迎えに行っています。

 

PROFILE 江上敬子さん

1984年生まれ。島根県出身。お笑いコンビ・ニッチェとして、相方の近藤くみこさんとともに活動。『女芸人№1決定戦THE W』に出演、2年連続決勝進出。

 

取材・文/間野由利子