息子が難病のミトコンドリア病であることが判明したことをきっかけに、子どもが栄養素をバランスよく摂れるサプリ「mog」を開発した小浦ゆきえさん。元々、わが子にサプリを使うことは1ミリも考えたことがなかったのに、なぜ起業にまで至ったのでしょうか。
息子の難病で、切実な現実に向き合うことに
── 息子さんが4歳のとき、難病のミトコンドリア病であることが判明したとのこと。聞きなれない病名にショックを受けられたのではないでしょうか?
小浦さん:息子の病気が判明したときは、あまりのショックに泣いてばかりの日々を過ごしました。ミトコンドリア病は、全身の細胞の中にあるミトコンドリア(エネルギーを生み出す器官)の働きが低下し、全身の臓器にさまざまな問題が生じる病気です。
病気が判明する前から、もともと息子は食がとても細かったんです。とにかく「食べさせなきゃ!」と、私もただただ必死でした。 「あれ食べて!これ食べて!」と強いては泣かせてしまうこともありました。結局、なかなかうまく栄養を摂らせることができず、子どもにもつらい思いをさせてしまいました。思うように子どもの食事が進まず、私の焦りは募るという悪循環で、つらい時期でした。私も相当、精神的に追いつめられていました。
── そんな状況をどのようにして打開したのでしょうか?
小浦さん:息子の血液検査がひとつのきっかけになりました。私は元々10年以上栄養補助の専門家として仕事をしていたこともあって、今の息子に理想的なバランスで食べさせることができていないと感じ始めていたんです。そこで、きちんと栄養が摂れているか気になり摂取できていない栄養素を調べるべく血液検査を受けました。結果、鉄分や亜鉛が不足していることが判明したんです。
これまで、食事を通して必要な栄養素を摂らせたいと考えていたこともあり、子どもにサプリメントを使うことは1ミリも考えたことがありませんでした。ただ、この検査以降「息子の栄養を確保するためには食事だけでは限界がある。サプリメントを使うしか方法がない」と、切実な現実に向き合うことになったんです。
──息子さんに適したサプリメントはすぐに見つかったのでしょうか?
小浦さん:自分の持っている知識を使い、国内外の子ども用の製品を必死で探しました。探して分かったことは、「頭を良くしたい」「背を伸ばしたい」など、もともと健康な子どもがさらに良い状態にするために 飲むサプリメントはあっても、基本的な栄養素さえしっかり摂ることが難しい子どもが標準へ向かうためのものはない、ということ。私が調べた範囲では見つけることができませんでした。
結局、医師にも相談して国産の大人向けのサプリメントを自分なりに考えて組み合わせ、摂取量などを調整して飲ませることにしたのですが、大人向けですから苦いものもあります。毎日美味しくないサプリを幼い息子に飲ませるのは苦戦しました。
──息子さんにサプリメントを飲ませてみていかがでしたか。
小浦さん:結果的に息子の体調も安定しました。また、サプリメントの使用で私自身も最低限の栄養が摂れているという安心感が生まれ、息子のペースに寄り添ってあげられる心の余裕が持てました。あのまま食事を無理強いしていたら、息子は食べること自体が嫌いになっていたかもしれません。長い目で見ると、子どもに食事の関心を持たせるという根本的な課題解決の近道になったのかなと思います。
一粒でまんべんなく栄養を摂りたい!
── 2017年にご自身で子ども用チュアブル「mog」を開発されました。同じ悩みを持つ多くの親御さんにも喜ばれたようですね。
小浦さん:多少なりとも専門的な知識を持つ私でも息子に合うものを探すのに苦労したので、きっと私と同じように、さまざまな理由で少食や偏食で悩んでいる親御さんたちも苦労されている方が多いだろうなと思ったんです。
息子にはいくつかのサプリメントを組み合わせていましたが、息子の体格に合わせた量を毎日調整するのは本当に負担でした。そんなわずらわしさをなくして「一粒でまんべんなく栄養を取れるものがほしい」と思い、立ち上がったのです。
信頼できるサプリメントメーカーに連絡し、商品開発に協力してもらえるようお願いしました。その結果、医療用栄養補助食品を開発する会社とパートナーとなり、試行錯誤の末、1年7か月かけて子ども用チュアブル錠材「mog」が誕生しました。子ども用ですから美味しい味にこだわって作りました。
同じ悩みを持つ親御さんたちからも喜んでいただき、医療機関でも、長期慢性的に病院に関わる子をサポートしている先生たちからも注目していただきました。現在ネット通販や一部の調剤薬局で販売していますが、この商品が今後もそういったみなさんの手に届き、お役に立てたら嬉しいです。
PROFILE 小浦ゆきえさん
日本臨床栄養協会認定 NR・サプリメントアドバイザー。健康食品・栄養補助食品の選び方・付き合い方を伝える健康食品アナリスト。息子の少食や病気をきっかけに、子どもの食事と栄養について学び、こども栄養バランスmogを開発。 食べない子の支援情報サイト「はぐもぐ」を運営。
取材・文/加藤文惠 画像提供/小浦ゆきえ