16歳でドラマ初出演を果たした、ダウン症の吉田葵さん。当初はスタッフの指示を忘れたり、アドリブを入れ過ぎてしまうこともあったといいますが、どのように向き合ったのでしょうか。(全2回中の1回)

錦戸さんも林さんも会ったときからイケメンでした!

── ダウン症の方の特性も様々かと思いますが、息子の葵さんはいかがですか?

 

吉田さん母:絵画や書道など、集中力を要することが得意な人もいますが、葵は歌ったり、踊ったり、何か表現することが好きそうだなと思いました。ダウン症の方は一般的に筋力が弱い人が多いと言われていますが、葵は体を動かしているときは生き生きとしています。

 

── 合唱団のリトミックや、バレエ、合唱の習い事もしているそうですね。

 

吉田葵さん:習い事は、めちゃくちゃ楽しいです。

 

吉田さん母:モダンバレエは7年で名取になれたのを機に辞めましたが、合唱団は8年たった今も続けています。どちらも大切な仲間ができたし、先生が息子のいいところを引き出してくれたり、集中力がつくような指導法をしてくれたこともよかったです。

 

吉田葵
母とカフェにて

── 吉田さんは、NHKドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』にダウン症の男性として出演されました。ダウン症の俳優がドラマのメインキャストとして出演するのは初めてかと思いますが、ドラマに出たきっかけは?

 

吉田さん母:モダンバレエで舞台の経験があったからか、日本ダウン症協会の方からドラマのオーディションに声をかけていただきました。息子にお芝居をやってみたいか聞いたところ、「やりたい」というので社会勉強にもなるかなと思い、オーディションに参加しました。

 

── ドラマの撮影はいかがでしたか?

 

吉田葵さん:出演者さんやスタッフさんたちと楽屋でお話して楽しく過ごしていたんですが、本番になると集中力が切れてしまうこともありました。でも、楽しかったです。

 

吉田さん母:撮影が始まった当初、息子はアドリブを入れ過ぎてしまい、指示されたことを忘れたりして自己流で演技をしてしまうことがありました。そのため、撮影の段取りや注意事項をノートに箇条書きで整理し、番号をつけてわかりやすく伝えるように。アドリブを控えて指示通りの演技ができるようになり、撮影もスムーズに進行するようになってきました。

 

── ドラマでは、父親役として錦戸亮さんや林遣都さんとも共演されました。

 

吉田葵さん:錦戸さんも林さんも、会ったときから、イケメンで、かっこよかったです!いろいろ話せてうれしかったし、優しかったです。

 

吉田さん母:錦戸さんは、小さい子の扱いに慣れてらっしゃるようで、息子がセリフを言いやすいように小さく合図を出してくれました。林さんとは、ワンシーンだけ一緒でしたが、林さんから一緒に写真を撮ろうと言ってくれたんですよ。息子は林さんにすぐに抱きついて一緒に写真を撮りました。

小さいときは兄とハンバーグの取り合いも

吉田葵
バスケットボールを楽しむ

── ドラマの撮影前と撮影後、葵さんを見ていて成長したなと思うことはありましたか?

 

吉田さん母:途中、セリフがうまく言えなかったり、うまく演技ができず悔しい思いをしたこともあったようです。「できなかったら次に変えればいい」とか、「次は絶対に成功してみせる」など、これまで息子の口から聞いたことがないような言葉を言うようになり、驚きました。撮影が遅くに終わり疲れている時も、朝、現場に向かう車の中でも、必ず自ら台本を開いてセリフを確認している姿にも驚き、成長を感じました。

 

── 葵さんは、うまくできなくて悔しかった時、どうしましたか?

 

吉田葵さん:7つ上のお兄ちゃんに電話で相談しました。お兄ちゃんは「セリフや表情がうまくいかなくても、すぐに気持ちを切り替えよう。次は絶対に成功させると思うことが大事」だと伝えてくれました。お兄ちゃんに言われたことを意識したことで、演技が上達してきた気がします。

 

── すごくお兄さんのことを信頼しているんですね。

 

吉田さん母:そのようですね。これまでの日常生活では、相談をするような状況になかったと思いますが、撮影の現場でいろんなことを考えたんだろうなと思います。

 

── お兄さんとは仲良しですか?

 

吉田葵さん:仲はいいんですけど、時々けんかもします。小さい時はハンバーグなど食べ物の取り合いでケンカして、今は、背の高いお兄ちゃんが、「チビだな」と言ってくるので「どこが!」と言い返したりしてます(笑)。

 

吉田さん母:基本、兄弟仲は良くて、今度親子3人でディズニーに行く予定です。葵はダウン症の特性で猫背になりやすかったり、言葉に詰まることがありますが、そんな時も長男は「背中が丸まってる」「ゆっくり落ち着いて話しな」と言っています。長男に言われて葵も意識するようになり、改善されてきました。私たち親は「ダウン症だから」と思ってしまいますが、長男からしたら、葵はダウン症である前に弟なんですよね。そこは兄としてビシッと(笑)。親でもない、友達でもない、兄の存在は大きいなと思います。

 

── 吉田さんは、お兄さんに指摘された時、どう思うんですか?

 

吉田葵さん:うるせえな!と思ってます(笑)。でも、意識したら直ってきました。

 

── 吉田さんは、家族に対してどういうふうに思っていますか?

 

吉田葵さん:吉田家は、絆でつながっていると思います。絆という字を漢字辞典で調べたら、一本の線でつながった、人と人との断つことのできない結びつきという意味でした。その意味を知って、あらためて絆でつながっているなと思いました。

 

── 吉田さんは、これからやってみたいことってありますか。

 

吉田葵さん:プロの俳優になりたいです。働いて、お給料でひとり暮らしをして、世界中のダウン症の人とパーティーをしたいなと思います。そして仲間とか彼女をつくりたいなと思います。

 

PROFILE 吉田葵さん

2007年1月生まれ、東京出身。2023年、NHKBSP『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』草太役で出演。

 

取材・文/間野由利子