「キャンプの醍醐味は焚火。頭の中が空っぽになってリフレッシュできます。相方(小峠さん)には、『お前はいつでも空っぽじゃねえか』と言われますけど」。キャンプ好きでも知られるバイきんぐの西村さんにその魅力を聞きました。(全3回中の2回)
人見知りの僕がキャンプに連れていってもらって
── 冠番組の『西村キャンプ場』(テレビ新広島)やYouTube『CAMP西村チャンネル』での配信など、キャンプ好き芸人としても活躍されています。そもそもキャンプを始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
西村さん:相方にピンの仕事が増え、暇を持て余していた時期に、さまぁ〜ずの三村さんから、「せっかく時間があるなら、いろんなことをして遊んでみたら?」とアドバイスをいただきました。それを機に、いろいろなことに挑戦したんです。小型船舶の免許を取りに行ったり、聞き流す英語教材をやってみたり。そのなかで、ドはまりしたのがキャンプでした。
── もともとアウトドアに慣れ親しむような習慣があったのですか?
西村さん:いえ、むしろ41歳で結婚するまでは、休日は朝まで酒を飲んで夕方起きるという不健康な生活を送っていました。
キャンプに出会うきっかけは、僕のキャンプの師匠でもあるヒロシさんです。10年ほど前に仕事でご一緒させていただき、お互い人見知りながらも、「エロ」と「バンド」という共通の話題で盛り上がり、その後、話をする仲に。あるとき、インドア派だと思っていたヒロシさんが、楽しそうにソロキャンプについて語っているのを見て、がぜん興味がわき、連れていってもらったのが、初デビューでした。
── キャンプに行きつくまでに、そんな試行錯誤があったとは…。
西村さん:もしもあのとき、英語学習にドはまりしていたら、まったく違ったキャラになっていて、今ごろ綾部君みたいにニューヨークにいたかもしれないです。どちらにせよ、キャンプに出会っていなかったら今の僕はいないので、ヒロシさんには感謝しています。
それまでキャンプといえば、夏にワイワイ大勢でやるイメージでしたが、初めて連れていってもらったのは、2月の極寒期。冬だから人がいなくて静かだし、虫にも刺されず、汗もかかない。澄んだ空気のなか、あたりには焚火のパチパチとした音だけが響き、空を見上げると満天の星空。それがすごく綺麗だったんです。めちゃくちゃ心が安らぎ、しっくりときて、あっという間にハマリました。
モヤモヤした頭の「燃えカス」が消える
── 西村さんは、ヒロシさんを中心とする芸人さんのソロキャンプ集団「焚火会」のメンバーでもありますよね。
西村さん:僕にとってキャンプの最大の醍醐味が、焚火です。日常のストレスや嫌なことも、全部すっきりと燃やし尽くしてくれる感じがします。
昔は、焚火がしたくてキャンプに行っているようなところもありました。番組でスベったときには、「今すぐ焚火の炎で癒やされたい…」と、スタジオからキャンプ場に直行したことも。今は、そうしたこともなくなりましたけど。
── 炎には、人の心をリラックスさせる効果があるといわれていますよね。焚火の最中は、どんなことを考えているのですか?
西村さん:何も考えないです。ただ、炎をボーっと見つめていると、頭が空っぽになってすっきりリフレッシュできるんです。相方には、「お前はいつでも空っぽじゃねえか」と言われますけど。
ただ、そんな能天気な僕でも、やっぱり日々モヤモヤとした「燃えカス」みたいなものはあるわけです。焚火をしていると、そんな頭の奥にある燃えカスも穏やかに消えて、「こんなちっぽけなことで悩んでても仕方ねえな。ま、いいか」という気持ちになるんです。焚火の炎やパチパチという音、煙の匂い…すべてに癒やされています。
── 五感に訴えかけてくる感じがしますね。
西村さん:そう思います。当初は、テントや服に匂いがつくことに抵抗があったんですが、だんだんと煙の匂いが心地よく感じてきて。だから、キャンプに行けないときは、テントの匂いを嗅ぐんです。焚火の残り香を感じられて、何とも言えない心地よい高揚感に包まれ、キャンプ熱がかきたてられます。
焚火に魅了されるのって、人間の本能なんじゃないかと思うんです。子どもが1歳のときにキャンプに連れていったのですが、何を思ったのか、一丁前に焚火の炎をじーっと見つめていましたから。
『西村キャンプ場』は芸人生活の大ボーナスタイム
── キャンプ人気とともに、マナーが問題視されることも。最近は、女性ソロキャンパーへの迷惑行為が物議を醸しました。
西村さん:僕らは、極力人がいないところでキャンプをするので、そうした場面に遭遇したことはないのですが、女性からしたら、暗がりでいきなり知らない男から話しかけられたらすごく怖いですよね。男性側は、それをもっと自覚すべきだと思います。最近は、女性専用キャンプ場もあるみたいですが、そんなふうにしなくてはいけないのは、なんだか寂しいです。
── 広島のローカルテレビ番組『西村キャンプ場』も好評ですね。
西村さん:初の冠番組、しかも大好きなキャンプの番組ですから、僕にとっては、芸人生活の「大ボーナスタイム」みたいなものです。
番組では、生産者さんからいただいたものでキャンプ飯を作ったりしていて、町おこしというとやや大げさですが、少しでも故郷の広島を盛り上げる力になれたらと思っています。
若いころは、自分のためにという気持ちが先だっていましたが、だんだん歳を重ねるにつれて、周りの人に支えられてすべてが成り立っているのだと実感するように。人の役に立ちたい、地元に何かの形で還元できればという思いが強くなってきています。
PROFILE 西村瑞樹さん
お笑い芸人。1977年生まれ、広島県出身。1996年に小峠英二と共にお笑いコンビ・バイきんぐを結成。2012年『キングオブコント』優勝。テレビ新広島で自身初の冠番組『西村キャンプ場』が放送中。9月にバイきんぐ単独ライブ「爆音」を開催。
取材・文/西尾英子 画像提供/西村瑞樹