溺れてしまったらすべきこと

── 実際に溺れてしまった場合に取るべき行動は何でしょうか。

 

高野さん:溺れてしまったときに最も大切なことは呼吸の確保です。そのためには海に入る前に必ずライフジャケットを着用していただきたいと思います。必ずサイズに合ったものを着用し、バックルを閉める。お子さんの場合は股の下に紐を通すものがついていますので、脱げないように着用してほしいです。

 

波に撒かれた場合の衝撃からも身を守ってくれますし、水に入っていると体が冷えてくるのですがライフジャケットには保温の役目もあります。

 

波に飲み込まれてしまった場合は、ライフジャケットの首元をつかみ、口と鼻を出して呼吸を確保してください。体が浮かない、水面から体が出ていないとパニックを起こしてしまう恐れもありますが落ち着いて行動してください。

 

よく、「海で流されてしまったら浮いて待っていてください」と言いますが、海では波や風があるのでプールのように静かに浮いて待っているのは難しいです。ライフジャケットをきちんと着用していただくと呼吸ができますので、そのあとで助けを呼びます。片手で大きく手を振っていただくとライフセーバーが助けに行くのですが、これは世界共通のヘルプサインです。泳ぐと疲れてしまうので泳ぐことを優先してはいけません。

 

ライフセーバーの仕事
救助が必要な際はヘルプサインを送ってライフセーバーに助けを求める

離岸流に流されてしまったら、秒速2メートルもの速さになりますので岸に泳いで戻ろうと思っても戻って来られません。その場合は横、もしくは斜め横に逸れることで離岸流から離脱することができます。ライフジャケットを着ていると浮くことができますので、上を向き、私たちはイカ泳ぎと呼んだりしますが、手足をイカのように動かして水をかく泳ぎ方をすることで離岸流から離れることができます。

 

── 家族や一緒に行った友人が溺れているのを見つけた時はどうしたらいいですか。

 

高野さん:ご自身で水に飛び込んで助けに行くのではなく、必ず助けを呼んでください。ライフセーバーが近くにいない場合は、周りの人に声をかけ、海上保安庁の118番、消防の119番に電話してください。警察の110番でも大丈夫です。思いつく緊急の連絡先に助けを呼んでください。

 

釣りや眺望の良い岩壁などにいて周りに人もいない場合は、クーラーボックスや2リットルのペットボトルなど、とにかく近くにある浮きそうなものを投げてください。何かを差し出すことでそれに捕まって浮いていられる状況を作ることができます。自分が飛び込むのではなく、浮くものを投げることが有効です。

 

ライフセーバー

── 救助のために周りにいた方が飛び込んでしまうニュースも耳にします。

 

高野さん:装備をせず助けに入った方が溺れてしまうケースが多くあります。大変強い精神力が必要になりますが、決してご自身は飛び込まず、どうすることで命を守れるかを十分に知って行動してほしいと思います。

 

溺れに関しては知っているだけでは行動に移せないこともあるので、実際に体験しておくことも大切だと思っています。私たちも全国で体験プログラムを開いていますし、ライフジャケットを買った際は、海で使う前にプールやお風呂で着用してみて、どうやったら浮くかを事前に試しておくことも大切です。

 

お子さんがいる場合に大切なことは、目の届く範囲ではなく、手が届く範囲で一緒に遊んでいただくことです。何かあったらすぐアクションをとることができますので、目線だけでなく体がすぐ動く位置にいてほしいと思います。

 

それと、大人の方向けの事故防止として、お酒を飲んだら泳がないということを守っていただきたいです。コロナ禍前の過去7年間の統計をみると、重い溺れのケースでおよそ3割が飲酒をしていたというデータがあります。事故防止で大切なことは、溺れないために事前にどうするかがほとんどを占めますので、しっかり準備していただけたら確実に防ぐことができます。

ライフセーバーの仕事は事故の未然予防

── 全国に1176か所ある海水浴場のうち、ライフセーバーがいるのは211か所で、残りの8割の海水浴場にはライフセーバーがいないことになりますね。

 

高野さん:海ではライフセーバーがいる遊泳エリアでぜひ遊んでいただけたらと思いますが、日本は島国ですしライフセーバーがいない自然の場所で遊ぶ方も多いと思います。レジャーを計画する際に事前に準備をしておけば事故は防げますので、ライフセーバーのいない場所でも備えておいていただきたいです。

 

ライフセーバーは救助要員のイメージがあるかと思いますが、本来は溺れた方の救助をするためではなく、溺れない水辺をマネジメントするためにもいます。もちろん溺れた場合の救助も行いますが、レスキューが必要な事態になっている場合は、活動目標を達成できていないことになります。

 

ライフセーバーの仕事
子どものケガの手当てを行うライフセーバー

事前に海やビーチの状況を確認してどんなところに危険があるかを把握し、監視活動をメインに行います。気象情報、水温、風向きも常にチェックしています。遊泳エリアには旗を立てていますので、それで風の向きがわかります。離岸流が発生している位置も把握し、海の深みや砂利が上がっている場所なども確認しています。

 

遊泳客の皆さんに危険な場所をお伝えしたり、危険につながる行動をとる方がいれば前もって声をかけたりしています。私たちがメインで取り組むのは溺れない環境を作るために、海のヒヤリハットを見つけて予防するのが仕事です。

 

── これから海のレジャーを予定している方に気をつけていただきたいことはなんでしょうか。

 

高野さん:海はリラックスもできて楽しい場所ですので、自分たちで自分たちの身を守る方法を知って遊びに行っていただきたいと思います。知識をもって準備をすれば安全に過ごすことができます。オンラインで水辺の安全について学べる、日本ライフセービング協会のサイト(e-lifesaving)等も活用していただきながら、事前準備や何か起きた際の心構えも確実に行い、楽しい時間を過ごしていただけたらと思います。

 

取材・文/内橋明日香 写真提供/日本ライフセービング協会