海のレジャーを楽しむ方が増える季節ですが、毎年、溺水事故が後を絶ちません。海の安全を提唱する活動を行う日本ライフセービング協会の高野絵美副理事長に事故予防についてお話を伺いました。

海水浴場で起きる事故の原因は

── 海で溺れてしまう原因は何が最も多いのでしょうか。

 

高野さん:毎年レポートを発表していますが、溺れに関する統計では圧倒的に風や離岸流(後述)に流されることが自然要因としては最も多い理由です。人的要因としては疲労と泳力不足がトップとなっています。

 

自然海域や水域はプールと違って必ず流れがあります。想像する以上のことが起こるため、事前の備えが大切になります。

 

── 溺れる要因となる、離岸流とはなんですか。

 

高野さん:海水浴場で起きる溺水事故の約5割(2013~2022年日本ライフセービング協会調べ)が離岸流によるものなのですが、これはリップカレントとも呼ばれ、非常に強く沖に押し出されてしまう流れのことです。

 

離岸流の調査
波がない穏やかな場所にも見えるが、ものすごい強さで沖に流されてしまう離岸流(e-Lifesavingより)

波は陸に向かって打ち寄せてきますが、陸側に来るばかりでは陸が水で溢れてしまいます。打ち寄せた波は必ず戻っていく場面を想像していただけたらと思いますが、強いエネルギーが集中して波が沖に戻る流れのことを離岸流と言います。頻繁に大きな離岸流が起きるところと、小さな離岸流が起きるところとさまざまあります。

 

離岸流は一見、波がないようにも見えます。横幅は何百メートルもあるわけではなく、20〜30mのことが多いです。離岸流にはまると非常に強く沖に流されていきますので、お子さんが大きな浮き具に乗っていたりする場合は特に気をつけてください。

事前の準備は

── 海のレジャーを計画する方が、出かける前に必要な準備について教えてください。

 

高野さん:遊びに行く前にすることは2つあります。海などに行く場合は子どもだけではなく必ず大人と一緒に行ってほしいのですが、大人同士で行く際にも家族や知人に行き先を伝えておいてほしいです。遊びに行った方々に何かが起きた場合、気づいてもらえる可能性がありますので、アウトドアのレジャーの際は必ず人に伝えてほしいと思います。

 

2つ目として、家を出る前に遊びに行く場所の天気をチェックしてほしいです。午後から風が強く吹くとか、雷の予報が出ているなどを事前に知っていると対処ができます。

 

── 夏は天気の良い日が多いので天気のチェックに関しては油断していました。

 

高野さん:もし、その日がすごく風が強いとわかっていたら、大きな浮き具を使うことはやめるという判断をしてほしいです。陸から海に向かって吹く風が強いと大型のものは風の抵抗を受けて沖へと流されてしまいます。

 

ライフセーバーもそういうところを気にかけて声をかけています。例えば「午後から風が強くなるから、あの大きな浮き具を使っている親子に声をかけよう」という感じでビーチをパトロールしています。

 

ライフセーバーの仕事
積極的にコミュニケーションをとって海の安全を守るライフセーバー

── せっかく用意したものを使いたい気持ちはありますが、使わない勇気が必要ですね。ビーチに着いてから気をつけることはなんですか。

 

高野さん:実際に海に着いてから気をつけてほしいことも2つあります。まず、砂浜にパラソルを設置したり敷物を敷いたりして拠点を作ると思いますが、そのあといきなり海に入らないでほしいです。

 

まずうしろを振り返って、自分たちがいる場所の把握をしてください。例えば、「あの赤い屋根の海の家の前から海に入った」というのを覚えておいてほしいです。海に入ってしばらく経ったらうしろを向いて位置を気にかけていただき、先ほどの目印からどのくらい逸れてしまっているかを確認してください。

 

入った位置より流されていることに気がつくと思いますし、遠く離されて離岸流にはまっているかどうかも落ち着いて判断できます。

 

2つ目は、風や潮の満ち引きの状況について情報収集をすることです。ぜひライフセーバーに積極的に話しかけて情報を集めてください。事前に天気予報をチェックしてくださいとお伝えしましたが、現地でも改めて情報を確認していただきたいです。ライフセーバーがいる遊泳エリアに行っていただき、「今日の天気はどうですか、このまま泳いで大丈夫ですか」などと気軽に声をかけていただきたいと思います。

 

ライフセーバー
ビーチのパトロールをするライフセーバー