ネット検索を使えば知りたい情報を手軽に手に入れられて便利ですが、子育てしている人の中にはネットの情報とわが子を比べて不安になる経験をした人も多いのではないでしょうか。育児と検索にまつわる経験談を描いた漫画が話題となっています。
「うちの子はまだしない」検索して不安になる日々
作者は、インスタグラムに日常の漫画などを投稿しているえんさん(@tamago_en)。
娘・ぽっぽちゃんを出産してから2か月ほど経ったころ、ネットで見た「2か月ごろになると〜します」などの情報が気になるようになっていました。「もう2か月だけどしないなぁ…」とわが子の成長へ不安を抱き、えんさんは自分が寝る時間になっても、自分を納得させる情報を探して、ネット検索を延々と続けてしまいます。
寝不足で迎える次の日、なかなか泣き止まないぽっぽちゃんと2人きりで過ごす時間はとても長くも感じられる一方で、気がつけばあっという間に夕方になっています。
夫・ハト氏が帰宅すると「自分以外の大人がいるってだけで安心する」と、心が軽くなるえんさん。ずっと気にしていた成長のことも「2か月頃にはするらしいんだけど、まだしないんだよね…」と口にしてみますが、ハト氏は特に気にならない様子です。えんさんは「こんなに気にしてるの、私だけかな」とますます不安になってしまいました。
ハト氏は夜中の授乳中にも寝かしつけを替わる提案をしてくれたり、出勤時や帰宅時には必ずえんさんを思いやる言葉をかけてくれる優しく頼れる存在。そんな夫に心強さを感じつつも、えんさんは不安がぬぐえません。
「発達には個人差があります」「焦らず比べず見守りましょう」。ネットではそんな言葉も見てわかっているつもりだけれど、やはり気になる…。
そんなある日。ぽっぽちゃんをだっこしているハト氏が何げなく言った「ぽっぽちゃん、順調だね~」という言葉を聞いて、えんさんはふと気づきます。
「今、なんか気持ちが軽くなった」
その理由を考えて、えんさんは「ぽっぽちゃんは今日も生きてる。たくさん泣いてごくごく飲んで、気づけば眠って。ぽっぽちゃんは順調だ」「私は平均と比べて不安になってばかりだけど、ハト氏は純粋にぽっぽちゃんだけを見ている感じがする」と、ぽっぽちゃん個人の成長だけを見る視点に思い至ります。
そして、以前保健師さんに言われた「できなかったことができるようになってるか、比べるのは過去のぽっぽちゃんとだけで大丈夫」という言葉も思い出して気持ちがラクに。その夜は検索をせずにすっと眠りにつくことができたのでした。
次の朝、目を覚ましたぽっぽちゃんはにっこりと微笑みます。それは初めてぽっぽちゃんがはっきり笑った瞬間でした。えんさんは「かわいいねぇ」と思わず涙が。
「ぽっぽちゃんと一緒の毎日、不安な気持ちで過ごすのもったいないな…」
えんさんは、この日を境に必要以上に検索するのをやめたと作品を締めくくりました。
発達の目安や他の子の成長と比べてしまう気持ちや、安心するための情報が欲しくて検索が止められなくなることに「よくわかって泣けました…」「人と比べないでいることって結構難しいですよね」と、同じような経験があるママたちから共感が集まっています。
「必要な情報が手に入ったら深入りしないように」
検索に振り回されていたころ、えんさんは実家・義実家も遠方で、近くに知り合いもおらず、周りに頼れる人もいないなかで育児をしていたと話します。
「初めての育児で“自分がしっかりしなければ”という気持ちが強く、育児情報は本やネット、市の情報などでよく見ていました。なかでも心の支えになっていたのは同じくらいの時期に出産したママがネット上で交流できるアプリ。不安や疑問をリアルタイムで同じ目線で共有することができる反面、“〜ができるようになりました!”というような喜びの投稿が目に入ったとき“うちはまだだな…”と無意識に比べて気持ちが沈んでいました」
不安になっていたなか、ハト氏の「順調だね」という言葉を聞いた時はどんな気持ちだったのでしょうか?
「ネットの情報を見て視野も狭くなり常に不安な気持ちがどこかにあったので、夫の“順調だね”を聞いたときはスッと肩の荷が下りた感じがしました。状況は変わっていなくても、自分以外の誰かが発する肯定の言葉をとても心強く感じました」
検索を控えるようになって、少し穏やかに過ごせるようになったというえんさん。
「“発達には個人差がある”と情報として頭では分かっていても、毎日自分の子どもと接する中ではちょっとしたことも気になり検索してしまうのは当たり前のことだと思います。私は自分で自分の不安をあおるような検索をしてしまっていたので、必要な情報が手に入ったらそれ以上は深入りしないように気をつけました。それからは、毎日がパッと楽になりました!それまで検索しては不安になっていた時間で、本を読んだり睡眠時間を確保したりして、余計な不安を感じることが少なくなったので精神的負担も軽くなりました」
手軽に知りたいことを調べられて、あるときは心の支えにもなるネット検索。しかし、求める以上のものを得てしまったり、人と比較して辛くなってしまうようなら、えんさんのように自分にとってちょうどよい距離で利用できるよう工夫するのも大事かもしれませんね。
PROFILE えんさん
夫・娘と3人暮らし。インスタグラム(@tamago_en)にて、日常の様子や過去のエピソードなどを漫画にして発信中。
取材・文/阿部祐子 画像提供/えん