今春、宝塚歌劇団を退団した君島憂樹さん。美容家の母・十和子さんから公演後にダメ出しもあったそうで──。宝塚ファンならではの的確なアドバイスについて伺いました。(全2回中の2回)
参考にしていた家族の意見
── 母の十和子さんは学生時代から宝塚のファンだったそうですが、憂樹さんの公演を観たご家族はどんな反応でしたか。
君島さん:退団前の数年間は楽しんで観てくれていましたが、下級生の頃はダメ出しが結構ありましたね。
下級生は公演の後に新人公演のお稽古があるので、帰宅するのが夜中の12時頃になります。関西まで観劇に来てくれても会えないことが多いので、自宅に手紙が置いてありました。
それには「ここ、意外と見えているから表情を作って」とか「アクセサリーはこういう色合いがいいよ」というような具体的なアドバイスが書いてありました。そうした家族の意見を参考に、ヒールの高さやお化粧の色も工夫していました。
── 宝塚ファンならでは、できるアドバイスですね。
君島さん:応援してくださるファンの方は優しい言葉をかけてくださるので、とても励みになります。ここまで細かく見てくれるのは家族だけなので、厳しい意見も本当にありがたかったです。
── 母の十和子さんは美容家として活動されていますし、美しさの追求は参考になりそうですね。
君島さん:宝塚のメイクは特殊なのですが、どうしたら綺麗に見えるかというのは、母がよくわかっているので参考にしていました。
気になる美容事情
── 幼い頃から美容には気をつかっていたんですか。
君島さん:日焼け止めは幼い頃からマストでした(笑)。でも、夏になるとプールや海が大好きで真っ黒な時期もありました。バレエの発表会で白いお化粧をするときに、あまりにも日に焼けてグレーになってしまったことも。結構、焼けていたと思います(笑)。
二十歳過ぎてからは肌質も変わってきたので紫外線対策は自分で意識してするようにしています。あとは入団して男役から娘役に変わったタイミングでかなり気をつけました。どんなに上に濃く塗ったとしても、ベースが整っていないと綺麗には見えないと感じたので。
── お稽古や舞台で忙しい中で綺麗なお肌を保つのは大変なことだと思います。
君島さん:舞台化粧はライトの光に対してすごく強いものを使っているので、寝不足だと肌が荒れてしまうこともありました。でもそれも自己管理の一環なので、どうしたら肌を綺麗に保てるかを考えました。
肌荒れはメンタルにも響くので、体調と共に肌の管理には気をつけていました。毎日、舞台のお化粧をするので、楽屋で鏡を見たときに肌が荒れているとテンションが下がりますよね。
── 舞台化粧は肌への負担も大きそうです。
君島さん:舞台化粧はクレンジングジェルかオイルを使わないと落ちないのですが、落とし過ぎてしまった結果、乾燥から肌荒れしてしまったこともありました。
舞台中に30分でお化粧変えをしていたので、出来る限りゴシゴシ擦らないようにして洗顔をしていました。
2回公演だと2回お化粧を変えるので、4回顔を洗います。帰宅後やお休みの日のケアはしっかりしていましたけれど、それでも、つけまつげの糊で目元がかぶれてしまったこともありました。舞台化粧のアフターケアは、きっと皆さん工夫しながら試行錯誤していると思います。
品格を大切に
── 宝塚音楽学校、その後の宝塚歌劇団で学んだことはなんでしょう。
君島さん:簡単には折れないメンタルを身につけられたと思います。毎日同じ舞台に挑むのですが、昨日の自分より今日の自分と日々精進していかなければなりません。たくさんのお客様が観に来てくださいますが、何度も来てくださる方がいる一方で、1回しかご覧にならない方もいらっしゃいます。そう思ったら毎日絶対に手は抜けません。
立場が上がるほど責任も重くなりますし、全員で同じ気持ちで舞台に立つことの大切さは学年が上がるにつれ実感していきました。卒業公演もみなさんに支えていただきましたし、決して1人ではできない舞台だったと思います。
退団して1人になって、これまで大人数でいた分不安に感じることもあります。でも入団して学ばせてもらったことが本当に多く、財産だと思っています。
── 宝塚音楽学校の「清く正しく美しく」という教訓が有名ですが、宝塚歌劇団で舞台に立つ際はどう意識していましたか。
君島さん:品を大切にというのはずっと言われていたので、男役であれ娘役であれ、市民の役であっても美しくなくてはなりません。例えば「ベルサイユのばら」で戦う町の人たちもそうです。それは常に頭にありましたね。どんな役であれどんな演目であっても、品格を大切にしていました。品格が失われてしまっては宝塚ではないと思っていました。
── 女性だけの世界ですが、衝突などはなかったのですか。
君島さん:みんな真剣に取り組んでいるので、意見の衝突はありました。でも、いじめみたいなものはないですね。言いたいことがあればその場で伝えて、その場で終わる。そして素直にごめんねと謝る、体育会系です。上下関係がしっかりしていて、上級生が絶対なのでわかりやすいかもしれません。でも、それがあるからこそ、あの舞台が完成するのだと思っています。
── 退団はいつ頃決めたのでしょうか。
君島さん:退団の1年前頃に決めました。自分で決めて、そのあとで家族に相談しました。特に反対意見もありませんでした。
── 舞台に立つ姿を観られて、ご家族にとっても充実した日々でしたよね。
君島さん:家族からありがとうと言ってもらえました。小さい頃からありがとうや感謝の気持ちは常に持つべきというのは厳しく言われてきましたが、私にとって家族は一番の強い味方です。
私は、何かしたいことがあるとまず家族に相談するのですが、親としての意見と、社会人の先輩としての意見の両方をくれます。
── 大事なことですね。親としての意見だけだと感情的になってしまうかと思います。
君島さん:もちろん、親としての意見が8割くらいを占めているかと思います。意見の相違でぶつかることもあるんです。私と母は似ているので、言い合うのではなく無言の冷戦状態になることもありますが、基本は信頼関係があるのですぐ元に戻ります(笑)。
── 退団後は、雑誌やテレビなどでご活躍されていますが、これから取り組んでいきたいことを教えてください。
君島さん:今まで宝塚で携わらせていただいたお芝居や歌ももちろん続けていきたいですし、これまでお見せしてこなかった面もお見せできたらと思います。美容やファッションにも興味があるので、自分の考えを形にできるようなことをしていきたいです。
── SNSで披露しているファッションも素敵です。
君島さん:ファッションは昔から好きですね。4歳下の妹がいるのですが、似合うものも好みもそれぞれ違うので、今では良い相談相手ですね。
私と母、妹と私で洋服などを貸し借りすることもあります。たぶん、私がふたりから借りていることが多いんですが(笑)。それぞれに合わせるコーディネートが全然違うので、全くイメージが変わります。
── 現在、本名で活動をされていますね。
君島さん:宝塚時代は蘭世惠翔という芸名があったので、芸名の自分が主でした。辞めてから本名に戻したのですが、これまで素の私をお見せしていなかったので、SNSの投稿を新鮮に見てくださっている方もいらっしゃると思います。
本名に戻すことは、辞める前から決めていました。本名に戻すことで自分自身に戻ったと言いますか、ホームに帰ったような気がしています。これからはもっと新しい自分を開拓してお見せできたらと思っています。
PROFILE 君島憂樹さん
1997年東京都生まれ。2016年宝塚歌劇団に第102期生として入団。同年星組公演「こうもり」「THE ENTERTAINER!」で初舞台。その後月組に配属。2018年「エリザベート」で少年ルドルフ役に抜擢。2019年8月娘役に転向。2023年4月「応天の門/DeepSea」東京公演千秋楽で宝塚歌劇団を卒業。現在はTV・雑誌・web等で美容やライフスタイルに関する発信を行う。
取材・文/内橋明日香 写真提供/君島憂樹