子どもとの時間は大切だけど、経済的にも自立する生活が必要。多くの親が抱える葛藤ですが、母子家庭ならなおさら。女子サッカー日本代表、解説者やコーチを経た大竹七未さんの歩みは?(全4回中の4回)

 

起業につながる運命の出会いとなった女性とのツーショット

息子との時間と生活の折り合いがつく仕事があれば

── 現在7歳の長男を育てる大竹さん。お子さんが生まれて、サッカーへの距離は変わりましたか?

 

大竹さん:出産前はすぐに指導者に復帰するつもりでした。でも、実際に子どもを産んでみると、息子が可愛くて可愛くて離れられなくなってしまいました。産前は「母乳とミルクの混合で育てます」って、産院に伝えたのですが、生まれたら全部母乳で育てたくなり、仕事のときは搾乳・凍結してあげていました。

 

一方で、監督をやる際は四六時中、選手や指導内容を考えてしまう性格です。監督になったら、私は子育てできない。だからいまは、サッカースクールで週1回で子どもと大人に教えるくらいです。

 

華麗なボールさばきをする長男のプレー

── 私生活では元サッカー選手のご主人と3年前に離婚し、シングルマザーとして奮闘中ですね。

 

大竹さん:私が生活を支えなきゃという責任を感じます。息子は年長のとき、七夕の短冊に「サッカーの日本代表選手になりたい」と書いていました。私が「いい加減、やめなさい」って言うまで、好きでずっとサッカーをやっています。息子だということを差しひいてみても、なかなか筋がいい(笑)。彼の夢を応援するために、サッカーの練習の送り迎えをしたり試合の応援をしたり、できることはすべてやってあげたい。

 

でも、私がサッカーの仕事を入れてしまうと、息子のために時間をかけられません。もちろん、生活するためのお金も稼がなければなりません。このやりくりが一番の悩みです。

スタイリストさんに言われたひと言が起業のアイデアに

── シングルマザーが子育てと仕事を両立させるのは、本当に難しいですよね。

 

大竹さん:いままでサッカーしかやってこなかった私が、どうしたら息子と一緒にいる時間をつくって、お金も稼げるんだろう?新しい挑戦もしたいけど、この7月で49歳になり、子どももいるから大きな失敗はできない…と悩みました。サッカーに関わる仕事をすれば生活はできるだろうけど、子どもと一緒にいる時間が減っていくようではダメ。サッカー以外にできることを毎日考え続けて、たどりついたのが起業です。

 

── 起業のアイデアは、どうやって思いついたのですか?

 

大竹さん:ずっと考え続けたていたんですが、サッカー以外に得意なことが思いつきませんでした。でもある日、テレビに出演した際、スタイリストさんから「年齢のわりに肌がきれい。色白」って、ほめてもらったんです。たしかに、あんなに外でサッカーをしてきたのに…。双子の妹に言われ続けていたおかげで、10代から日焼け止めを欠かさなかった影響かなと、思いあたりました。

ひとつのことを「10年やれば結果が出る」それが人生

── なるほど、元日本代表エースストライカーが、長年の日焼け止めのおかげで美肌を保っているというのはインパクトがあります。

 

大竹さん:「日焼け止めなんか塗るな!」って、当時は監督や先輩に怒られながらも続けてきた習慣です。私の肌が実験台で、何十年もの効果があらわれています。そうしてありとあらゆる日焼け止めを使ってきましたが、満足いくものはありませんでした。

 

私は肌が弱くて、引退後の現在もイベント出演や息子のサッカーの応援などで紫外線の負担を感じ、精神的にもやられていました。だったら、納得できる製品を自分で作ればいいんだって。

 

商品の開発なんて何も知らない世界だけど、日焼け止めは唯一、何十年もやってきたことだから頑張れそう。誰にも負けない分野を見つけた、これで自分を救える!って。逆に、サッカーをやってなかったら起業しなかったかもしれません。

 

そこで、知り合いから紹介してもらった女性起業家で株式会社BARNUMの西尾美徳さんと話すと、意気投合。教えてもらったグラフェンという物質をもちいて、自分の理想の日焼け止めをつくりました。ウォータープルーフだけど、子どもも使えて皮膚がお肌が乾燥せずにハリやツヤ、潤いを与えるなど、こだわりぬきました。

 

完成まで8か月を要した日焼け止めSPF+50の「N SHOOT」が5月末に発売された

── 40代後半で、知らない分野に挑戦するのに不安はありませんでしたか?

 

大竹さん:不安しかありませんでしたが、そんなこと言っていられません。なでしこ旋風のとき、テレビで美人解説者だと持ち上げられて「そんなことないです」と申し訳なく思いましたが、息子と生きていくためには、謙遜なんてしていられない(笑)。日焼け止めで守りぬいた肌をまわりがほめてくれるなら、それを活かせる仕事をしなきゃと考えが変化しました。

 

「子どもがいるから失敗できない」気持ちはあります。でも、成功し続けるまでやり続ければ失敗なんてない。正直、いまも起業が順調なわけではありません。納得のいく商品はできたけれど、開発や原料など予想以上にお金がかかってしまい、広告宣伝に回せる資金力がなく、なかなか多くの人に知ってもらえない状況です。

 

でも、サッカーで「できないことをできるようにする」努力の方法を学び、のりこえ方を経験しているので、目に見えない自信があります。本当に優秀な選手はどんなチームでどんな監督につこうが、必ず日の目を見るのと同じで、良い商品なら結果がついてきます。

 

── 人生をかけてサッカーから学んだ経験が、いま大竹さんを助けているのですね。

 

大竹さん:はい。あきらめないで地道にやっていけば、絶対いつかは花開くと信じています。高校の進路選択では、「サッカーでは食べていけない」と反対され、その後もバカにされたり、ケガをしながらも11年後に日本代表になりました。2001年の引退直後は解説者としてはさんざんでしたが、10年後の2011年に解説者として認められました。

 

だから、自分が「これ」と決めたものは10年間はやってみようと覚悟しています。さすがに日焼け止めは10年待てないですが(笑)、いつか必ずものになるはずと信じて。

 

PROFILE 大竹七未さん

サッカー解説者・指導者。全日本選手権4連覇、日本女子リーグ3連覇など、フォワードとして活躍。Lリーグ(現WEリーグ)では最速で100得点を達成。日本代表のエースとして、五輪やW杯など、国際Aマッチに46試合に出場して30得点。2015年長男を出産。2022年、株式会社ティアラ・7を設立し、日焼け止め商品「N SHOOT」の開発や販売をてがける。

 

取材・文/岡本聡子 画像提供/大竹七未