TBSアナウンススクールの校長も務めた吉川美代子さん。数々のアナウンサーを見ながらなぜ安住アナは印象に残っているのか。また、女子アナと呼ばれる言葉について違和感があるといいます。(全4回中の3回)

「女子アナ」って言葉は上から目線

── 吉川さんは「女子アナという言葉は本来存在しない」と仰っていますが、これはどういう意味なんですか?

 

吉川さん:女子アナって言葉は、どこか上から目線なんですよね。あえてストレートにいうと「顔は可愛いけど、若くておバカ」というニュアンスが含まれている。大事なのは男性か女性かではなくて、プロかどうか。私がTBSに入社した当時のアナウンサーの分け方は、新人アナウンサー、若手アナウンサー、ベテランアナウンサーみたいに、技術面の分け方が一般的でした。

 

── ちなみに、いつごろから「女子アナ」って言葉が使われ始めたんですか?

 

吉川さん:私の記憶だと、バブル期にフジテレビが使い始めたのが最初ですね。フジテレビでは80年代に『楽しくなければテレビじゃない』とキャッチコピーをつくったり、「女子アナ」という価値観を新しくつくって、残念ながらTBSも含めて、周りの局もそのムーブメントに便乗して定着しました。そこからですよ。アナウンサーを採用する面接の基準が変わったのは。それまでは当然、声が重視されていましたが、そこからは外見ばかり。カメラテストのときにどう映るかが大事になった。

 

そうなると、アナウンサーの育成方針も変わるんですよね。今までみたいに40歳や50歳になっても通用するような育て方ではなくて、若いときだけアイドルのように注目されればいい、となってしまいました。局アナはタレントではないのです。「女子アナ」としてちやほやされることに満足しては、いいアナウンサーになれません。

安住アナが光るわけ

ジャズライブにて熱唱する吉川さん

── 吉川さんは、TBSアナウンススクールの校長を12年間も務めていました。さまざまなアナウンサーを見てきたと思いますが、とくに印象に残っている人をひとり教えてもらえませんか?

 

吉川さん:もし、ひとりだけ挙げろと言われたら、読者が知っているあたりで言うと、安住紳一郎アナかな。この仕事を長くやっていると、才能があるかどうかは1か月くらい見ればだいたい分かります。安住は才能もあるけど、何よりもコツコツと陰で努力を繰り返していました。たとえば、一度注意をすれば、次に会うときまでにちゃんとそれを克服してくる。実はこれがすごく大事なことなんです!

 

── 注意したことを直すのが、すごく大事?

 

吉川さん:そうです。アナウンサーとして伸びる子と伸びない子を比べたとき、実は講師がその子たちに注意をする量自体はそれほど変わらないんですよ。ただ、伸びない子は自分の弱点を克服しないままでいるので、何度も同じ注意を受ける。一方で、伸びる子はちゃんと弱点を克服してくるので、注意のレベルが上がっていくんです。それができるから、どんどん成長していく。

アナウンサーに必要な伝えるセンス

── 先ほど、才能という言葉が出てきましたが、アナウンサーの才能って何ですか?

 

吉川さん:“伝えるセンス”ですね。この原稿は何を伝えたいのか、その本質を理解できているか。そこが重要なんです。アナウンサーの仕事は、文字を音に変えて読むことではなく、意味を伝えることなんです。

 

センスのないダメなアナウンサーの原稿を見ると、たとえば深刻なニュースの次の明るい話題の原稿の冒頭に「ここからは笑顔」とか書き込みがあるんです。深刻な内容の次にいきなり笑顔になるはずがない。明るい微笑ましい内容なら、読んでいくうちに自然と笑顔になる。つまり、原稿をただ読み上げるのではなく、原稿に書かれた微笑ましい内容を理解し伝えているから、声のトーンも意識しなくても明るくなります。

 

ですから、アナウンサーでなくても伝え上手というのは「心からの言葉を話す人」なのです。私は講演や研修ではいつも「心からの言葉は必ず伝わる」と言っています。たとえ喋り方が上手でなくても、本当に伝えたいこと、聞きたいことがあるかどうかです。

 

── 吉川さんの言う“伝えるセンス”は鍛えられるんですか?

 

吉川さん:センスがなくても、ある程度は鍛えることは可能ですし、経験で得られる部分もありますが、文学・美術に子どものころから触れて心が豊かか。他者への思いやりがあるか。世の中に興味があるか。これらがないとアナウンサーとして大成しません。


 

── 吉川さんのお話を伺うと、アナウンサーにこそ、人間力が求められる気がしてきました。最近では自動音声での読み上げソフトも普及していて、アナウンサーの世界にもデジタル化の波が訪れていると思います。先ほど言われた“伝えるセンス”というのは、まさに生身のアナウンサーにしかできないことなのではないでしょうか?

 

吉川さん:もちろん、技術革新が進めば状況が変わるかもしれませんが、現在の話で言えば、感情を言葉にのせて伝えることは、生身のアナウンサーにしかできないことですね。だからこそ、新人のアナウンサーには、伝えるセンスを磨いてほしいと思っています。

 

PROFILE 吉川美代子さん

1954年生まれ。1977年にTBS入社し、以後37年間アナウンサーとして活躍。TBSアナウンススクール校長を12年間務めた。2014年に定年退職するも、その後も精力的に活動中。

 

取材・文/佐々木翔