「ヒロシです」のネタでブレイクを遂げた後、メンタル不調で一時メディアから遠ざかった時期を経験した芸人・ヒロシさん。「でも、あれは人生のどん底じゃなかった」と話します。その言葉の意味とは。(全4回中の2回)
いきなり売れて自分のキャパを超え「すべてが面倒になった」
── 2004年頃にブレイクした後、メンタル不調でパニック障害を経験されています。当時の様子をうかがってもいいですか?
ヒロシさん:下積み時代が長かったとはいえ、いきなりポーンと売れちゃったので、どう振る舞っていいかわからないところが多かったんだと思います。いろいろなことを考えすぎて頭がパンクしてしまったんです。おそらく自分のキャパを超えていたのでしょうね。だんだん気持ちが追い詰められ、なんだかすべてが面倒くさくなって、「死んだらラクになれるのかな」と考えるように。このまま続けていくのはとても無理だと判断し、ドロップアウトしました。
── ひとりで抱え込んでしまったのはつらかったでしょうね。気持ちを吐き出すのは、やはり難しかったでしょうか。
ヒロシさん:誰かに相談するような心の余裕はなかったですね。それに、そんな話を聞かされるほうも困るだろうし、正直言って、「あいつは気が変になった」と思われたら嫌だなあという気持ちもありました。結局、ひとりではどうにもならず、クリニックを頼りました。薬を処方してもらい、環境を変えることで、症状が徐々におさまりました。
でも、あのときは自分にとって人生のどん底かといわれると、実はそうでもないなって思うんです。もっと若いころの下積み時代のほうがよほど窮地に陥っていたし、追い込まれていましたから。
── 下積み時代はもっと追い込まれていた、と。
ヒロシさん:だって、究極に貧乏でしたからね。手元に300円ぐらいしかないような生活が続き、毎日がまさにサバイバル状態で。ホストをしていた時期もありましたが、コミュニケーションがヘタクソすぎて、全然稼げず、お金なんてほとんどもらえかった。結局、時間が奪われてお笑いもできず、ひたすらキツかっただけ。何も得るものがなかった気がします。
人生で後悔していることはあまりないけれど、唯一ホストだけはやらなきゃよかったなと思ってます。振り返ると、どうやって生活していたんだろうと不思議です。それでもなんとか生きていましたから、若いときって、ものすごいエネルギーがあったんだなと思います。
── たしかに、若いころってどこか無敵な感覚がありますよね。年齢を重ねると、あの頃の無謀さがまぶしい…。
ヒロシさん:この年齢で同じことをやれといわれたら、絶対に無理です。ゾッとしちゃいます。でも、逆にいえば、何も持っていなかったからこそ、失うものがなくて、怖さを感じなかったのかもしれない。それに、つらいどん底を経験しているから、「いくらなんでもあのころよりはマシだろう」という感覚があって、ブレイク後でも、持っていたものをすんなり手放すことができた気がします。
人と関わるのが苦手…人生を変えたのはソロキャンプ
── 昔から、「コミュニケーションは苦手」とおっしゃっていますが、年齢と経験を重ねることで、なにか変わってきましたか?
ヒロシさん:いや、まったくなにも変わらないです。ただ、思ったことは口にしないと、自分の意図が伝わらないということは学びました。でも、だからといって、そんなに自分を変えられるわけではないし、無理して変えたいとも思っていません。
僕は、基本的にワガママなので、自分の意思を曲げたり、我慢したりするのが嫌なんです。だから、バラエティ番組でも上手に立ち回れず、スタッフの方とぶつかってしまうこともありました。そんな僕の救いになったのがYouTubeでしたね。自分でやりたいことをやりたいように発信することができ、それを応援してくださる方たちが出てきたことで、新しい場所や仕事のやり方を見出すことができました。すごくありがたかったです。
── 2015年からスタートしたYouTube「ヒロシちゃんねる」は、今や登録者数100万人以上の人気チャンネルです。そもそもYouTubeでソロキャンプの動画を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?
ヒロシさん:当初は、別にキャンプ動画に限っていなくて、なにか自分で発信してみたいなと思って始めました。たまたまキャンプが趣味だったので、動画を撮って編集してみたら、これがすごく楽しかったんです。
友達に誘われてキャンプに行ったこともあるけれど、人がいると、いろいろと気を使わなくてはいけない場面が多くて、煩わしかったんですよ。そこで、ひとりでやってみたら、圧倒的に自由で開放感があった。そこからどんどんハマっていって、ソロキャンプがメインのチャンネルになったというわけです。
だから、別に狙ってやったわけではなく、たまたまそれが当たって仕事になっただけ。すごくラッキーだったなと思っています。ソロキャンプに出会えたことが、人生の転機になりましたね。
── 自分にとって心地よい居場所を追求したら、それが仕事になった。まさに、理想の働き方という気がします。
ヒロシさん:実際は、そんなたいしたもんじゃないですけどね。でも、今は昔と違って生き方のバリエーションがいろいろあって、どこかに所属しなくても、ひとりでやりたいことをしようと思えばできるし、ぼっちでも後ろ指をさされない。たとえ失敗したって、自分の責任だから納得できます。もちろん、いい面ばかりではないけれど、昔よりは生きやすい世の中になっているのかなと思いますね。
PROFILE ヒロシさん
1972年生まれ。熊本県出身。2004年頃「ヒロシです」のネタでブレイク。2015年「ヒロシちゃんねる」を開設し、YouTuberとしての活動も開始。BS-TBS『ヒロシのぼっちキャンプSeason7』(毎週水曜よる10:00)、熊本朝日放送『ヒロシのひとりキャンプのすすめ』(毎週金曜よる0:15)などのレギュラーがある。6月30日には自身のアウトドアブランド『NO.164』より『 NO.164 野外洋袴』(やがいようばかま)〜ヒロシ特別モデル〜を発売!
取材・文/西尾英子 写真提供/ヒロシ