不妊治療の最中にがんが発覚した、だいたひかるさん。子どもは諦めないといけないのか?夫とどんなことを話しながら、病気と向き合っていったのでしょうか。(全4回中の1回)

不妊治療で夫婦の温度差

── だいたさんが結婚されたのは38歳のとき。お子さんについてどのように考えていらっしゃいましたか?

 

だいたさん:なるべく早く欲しいなと思いました。2016年当時、卵子の老化がよくメディアで取り上げられて、35歳ぐらいから妊娠しづらくなると聞いて、すぐに不妊治療を始めました。30代のうちにどうにか妊娠したかったものの、妊娠で陽性反応が出てもすぐに流産してしまい、焦る日々でした。

 

── 不妊治療に関して旦那さんはどんな感じでしたか?

 

だいたさん:夫は協力的でした。ただ、夫婦間で温度差はありましたね。夫は私よりも2歳年下で、「そのうちできるだろう」と考えていたと思います。それに対して、私は生理がくるたびに自分の体から卵子の数が減っていくイメージで焦りを感じていたんです。

 

不妊治療が長引くにつれて、夫婦仲もギクシャクしていきました。妊娠の可能性があるタイミングは1か月に1回、1年間でわずか12回しかないんです。私は排卵日が近づくと、トイレに妊娠検査薬を置いて旦那に「そろそろだよ」というサインを送っていました。これで、さりげなく夫に排卵日を伝えていたのです。

 

いっぽう夫は、妊娠できるかを気にしすぎて、イライラしている私を気づかって仕事帰りに時々お土産を買ってきてくれることもありました。今考えればありがたいことなんですが、排卵日の日に買ってきたときは、1分1秒が惜しくて、「お店に立ち寄る時間があったら1分1秒でも帰ってこい!」と、本気で思うほど焦りを感じてました。

不妊治療のはずが…

だいたひかるさんと不妊治療の末に誕生したお子さん
不妊治療の末に誕生した我が子を抱くだいたさん。愛しさが溢れる

── 不妊治療中に乳がんが見つかったそうですね。

 

だいたさん:たまたま受けた乳がん検診がきっかけでがんが見つかったんです。2016年1月2日、不妊治療で受精卵を移植する予定でしたが、不正出血があって移植が中止になりました。「暇になったし、ここ1年半ほど乳がんの検査を受けていなかったから受けようかな」と、そんな軽い気持ちで病院に行ったんです。

 

ところが、先生が触診してひと言「右しこり」と。続けて「これは乳がんの可能性が高いですね」と言われました。あれよあれよという間に、マンモグラフィーなど、いろんな検査にまわされました。

 

── 自覚症状などはありましたか?

 

だいたさん:まったくなかったんです。どこも具合が悪くないのにいきなり「がん」って言われても実感がわかなくて、申し訳ないけどやぶ医者じゃないかと思ってしまったほどです。

 

続けて先生から「家族と来てください」って言われました。それを聞いた瞬間に、もう駄目なんだと、頭が真っ白になる思いでした。夫は、結果を聞きに行く前に病院に電話して「心の準備が欲しいから教えてください」と言って、病院のスタッフから「個人情報なので教えられません!」と怒られたそうです(笑)。

 

後日、病院に行って先生から乳がんの治療法について説明を受けましたが、初めて聞く言葉ばかりで頭が追いつかず、まるでお経を聞いているかのような気分でした。

不妊と乳がんは真逆の治療法と聞いて

── がんの告知はどう受け止めたのでしょうか?

 

だいたさん:信じられない気持ちでいっぱいでした。今までやってきた不妊治療はホルモンを増やす治療をしてきました。それに対して乳がん治療は、ホルモンを下げる治療になります。しかも、乳房の全摘手術を受けて終わりかと思ったら、手術中にリンパ節転移が見つかり、抗がん剤治療もしなければいけなくなったんです。

 

乳がんの治療をしたとき、私は40歳。抗がん剤治療をすると、年齢的にそのまま閉経する可能性もあると言われました。もう子どもを持つことはもちろん、不妊治療のステージすら立てないんだなと思い、その時はすべてを諦めてましたね。

 

── そうとう落ち込みますね。

 

だいたさん:最初は、これ以上ないくらい落ち込みました。でも、がんが発覚した時に、夫が「大丈夫」という言葉を大きな文字で紙に書いて家中に貼ってくれたんです。その言葉を見ると、「落ち込んでいてもしょうがない。今やるべきことをやってまた元気に暮らしたいな」と思うようになりました。

だいたさんの部屋中、至る所に「大丈夫」の張り紙が貼ってある

また夫は、不確かな情報やネガティブな事例が含まれているためインターネットでがんの検索をしないようにと言いました。かわりに、やなせたかしさんなど、がんを経験した人の本を買ってきてくれたんです。本を読み進めるうちに、励まされる言葉がいくつも出てきて、私、もうちょっとがんばろうと思えるようになりました。同時に、がんを患っても元気に生活している人もいるとわかり、前向きな気持ちにもなれました。

 

がんになったことは残念だけど、私の体はこれまで40年以上、年中無休で働いてきたわけです。車には定期的な車検があるように、私の体も乳がんの治療でメンテナンスやケアが必要な時期がある。乳がんになったのは、今はメンテナンスの時期だなと思えるようになりました。

 

PROFILE だいたひかるさん

お笑いタレント。2002年『R-1ぐらんぷり』の初代王者。2016年、2019年と2回のがんを乗り超え不妊治療の末、2022年に第1子出産。

 

取材・文/間野由利子