今春からタイに移住し、現地の様子を夫婦のYouTubeで配信する桜 稲垣早希さん。育児の担当は「夫と半々」だそうですが、当初夫の家事力はほぼゼロ。夫が変わったきっかけとは?(全4回中の4回)
コロナ禍出産で夫婦で病んだ「7か月引きこもった」
── 移住前のコロナ禍でのお仕事は、なかなか厳しい状況だったのでしょうか。
稲垣さん:そうですね。コロナ禍と同じタイミングで出産したこともあって、人前に立つことが全然できなかった数年でした。コロナがなかったら、できる限り早く復帰して、お休みさせてもらっているお仕事も再開して、と思っていたんです。生涯現役で仕事したいタイプだったので。でも、コロナで外にも出られない状態になってしまったのと、あと、赤ちゃんがかわいすぎて…。
── わかります。
稲垣さん:それでYouTubeを頑張ったりして、リモートでできるだけお仕事して生きていきたいな、と。そういう考え方の変化があったんですけど、一方で、たまに外のお仕事に行ったときのリフレッシュ感がものすごくて。当時は、公園にも怖くて行けなくて、7か月間ぐらいずっと引きこもっていたんです。実家も関西だったんで、親にも会えなくて。それで、私も夫も引きこもりすぎて病んでしまって。
── そうだったんですね。
稲垣さん:あるとき、児童館に遊びに行ったんですけど、そこで話しかけてもらったり、他愛のない話ができて、すごく救われたんですね。なので、仕事的にも、たまに外で人と触れ合って、社会と繋がってお金を稼ぐっていうのは、精神的にもめっちゃ大切やな、と思って。
月に1度、お互いに自由な日を設ける
── 旦那さんも在宅ワークですよね。どんなに仲良くても、ずっとこもっていたらギスギスしませんか。
稲垣さん:ワンオペで引きこもって育児するお母さんを想像したら、本当に大変やなと思うんです。夫がいてくれたから大変さも共有できて。夫も子どもができたタイミングで会社を辞めてフリーランスになってくれたので、今でも本当にありがたいなと思っているんです。でも、逆にずっと一緒にいるから、ストレスがお互い溜まったり。なので「お互い月に1度、自由な日を設けよう」と話し合いました。
── へえー!
稲垣さん:産後初めてスーパー銭湯に行って、子どものことも考えずに「はぁ~」っとリラックスできたときは、本当に天国で。人間、こういうのが大切なんやな、と身にしみました。
── 素敵ですね。ほかに、夫婦でルールを決めていることはありますか。
稲垣さん:うちは多分、けっこういろいろ決めているほうだと思います。夫も私も働いていますが、夫の方が仕事量は多いので、家事育児の分担は多少私のほうが多めなんですけど、基本には半々ということに決めてまして。朝、幼稚園に送り出すときも、1人は早起きして息子のご飯を作りますが、それも今日は私、明日は夫、というように交互にしています。
同棲時代に叩きこんだ家事「このままじゃ結婚できない」
── 夫のりおなりさんは、家事ができるタイプの方なんですか?
稲垣さん:最初は本当に何もできなかったんです。ひとり暮らししたことがないまま、同棲して結婚して。同棲期間が半年ぐらいあったので、その間に叩きこめるだけ叩きこみました(笑)。
これ、ちょっと気をつけなあかんなって思うんですけど、実家から出てきた男の人のなかには、魔法のようにきれいにたたまれた洗濯物がタンスの中にあって、魔法のように毎日お母さんが美味しいご飯を作ってくれて、ほっといても健康的な食生活ができて…みたいに思っている人がいるんですよね。
誰かが洗濯機を回して干してたたんでしまわないと、そういう現実ありえないんだよっていうことが本当にわかってない。
── 不思議ですよね。なぜ座っていても、食卓に箸が出てくると思っているのか…。
稲垣さん:不思議ですよね。ハリーポッターみたいに魔法でフィッと出てくる食卓だと思ってんのかってぐらい勘違いをしているので(笑)。同棲を始めた序盤で「これはやばい。このままだと結婚できない」と思って、1回ちょっと言ったんですね。
── どんなふうに伝えたんですか?
稲垣さん:「私ばっかり洗濯してない?」「私ばっかりお皿洗ってない?」とか。当時子どもがいなかったんで、私もまだけっこう仕事をしていて。でも夫はスマホを見ながらダラダラソファーに寝ていて。「これ、おかしいと思う」みたいな。それで、その日から、夫に関する家事を、すべてやめたんですよ。
── おお…!
稲垣さん:洗濯物も、私の分しか洗濯物を洗わない。そうしたら、どんどんたまっていくんですよ。夫の洗濯物が山が崩れるぐらいのときになって初めて、夫が「そっか、自分でやらないと、着る服がなくなるんだ」と気づいて。そこで初めて「じゃあ洗濯機やってみようか。洗剤はこれぐらい入れるんだよ。干し方はこうだよ」と伝授させてもらいまして。
── 根気強く、ステップを踏んで教えたんですね。私だったらキレてしまいそう…。
稲垣さん:私も最初はキレてたんですよ。でも爆発した後に「この人、悪気があってこうしてるんじゃなく、本当に気づいてないんや」と気がついて。なので、全部の家事を全部ひと通り「自分の家事しかしない」としたら、だんだん自分から努力してくれるようになりました。
育児も全部そうなんですよ。「オムツの替え方わかんない」とか言われても、私もわからんかったので。一緒にネットで検索して「これやってみよう」とか。自分でやってしまうほうが楽やったりもするときはあるんですけど、ぐっと我慢してました。
元ファンの夫「ケンカしたら『ロケみつ』のブルーレイを…」
── 今ご夫婦のYouTubeで仲がよさそうな日常を配信していますが、二人で仕事するとケンカが増えたりしませんか?
稲垣さん:一緒に仕事する上では、めちゃくちゃぶつかることもあります。プライベートも一緒やし、仕事も一緒やしってなると、やっぱりストレスも溜まるし。
やっぱり私はテレビのやり方とか喋り方とかが身についてるところがあるんですけど、彼はYouTubeの畑で育った人なので、やり方が最初全然違うんです。テレビのテンションのままやってしまうと、YouTube見てる人はしんどい、みたいな。
撮ってるのがVlog(ブイログ)なので、私の喋り方が全然Vlog感がない、みたいに言われたり。最初はそういうところで食い違ったり、ぶつかることはあるんですけど、そういう時は、「もう今日は撮影やめとこう」って、明日に回したり。
けっこう難しいところうだと思うんですけど、そのときのテンションがすべてを支配してしまうので。別に喧嘩を見てほしいチャンネルでもないし、普段は平和にやっていて。できるだけそういう普段の面を見てほしいなと思ってやってるので、「今日は撮れないな」と思ったら撮影自体をなくす、という感じで今はやっています。
── そういうときに仲直りするために心がけてることはありますか?
稲垣さん:私のほうが引きずっちゃうんですけど、夫が絶対にその日のうちに謝りに来てくれるんです。「さっきはごめんね」って、謝るきっかけをくれるんですよ。きっかけもらったら私も「こちらこそごめんね」っていう感じで。早めに解決するっていうのを夫は心がけてくれてるらしくて。
── りおなりさんは喧嘩したら自室に引きこもって「ロケみつ」のブルーレイを観て初心を思い出しているとか。元々、稲垣さんのファンだったんですよね?
稲垣さん:いやあ、今はまったくそういう感覚もないんですけど(笑)。ケンカをバーッてしたあとに、お互い部屋に入って、夫は「ロケみつ」のブルーレイを見て気分を変えて、ドアをガチャッと開けて「さっきはごめんね」っていうのがポピュラーな流れなので。もうずっと、便利道具として擦り切れるまで見てもらうかなと思っております(笑)。
PROFILE 桜 稲垣早希さん
1983年生まれ。『新世紀エヴァンゲリオン』惣流・アスカ・ラングレーのモノマネをベースにした「エヴァ漫才」でブレイク。2023年2月に家族3人でタイに移住し、現地での生活をYouTubeなどで伝えている。
取材・文/市岡ひかり 写真提供/桜 稲垣早希