「自分の分身がその場所に行ってくれたらどんなにいいだろう」。誰もが一度は抱く思いを実現させた会社があります。分身ロボットの開発を手がけるオリィ研究所の結城明姫さんにお話を伺いました。

外出が困難な方も働ける分身ロボット

── 2年前に東京・日本橋にオープンした「分身ロボットカフェDAWN ver.β」は、OriHimeというロボットがバリスタとしてコーヒーを淹れたり、接客をしたりしているそうですね。OriHimeはどうやって操作するのでしょうか。

 

結城さん:人工知能がついているおしゃべりロボットと思われることもあるのですが、カメラとマイクとスピーカーがついた、人間が操作するロボットです。操作をする方をパイロットと呼んでいますが、病院や自宅にいてもパイロットがタブレットやパソコンから、指や目線の動きで操作をすることができます。

 

分身ロボットOriHime
お客さんに提供するコーヒーを持って店内を移動する分身ロボット。首元にチーフを巻いて接客を行う

── パイロットにはどのような方が登録しているんでしょう。

 

結城さん:私たちは外出困難者と広い範囲で呼んでいますが、障がいや病気をお持ちの方、子育てや介護中の方、海外在住の方、精神的な理由で実際に人と会うと話ができないけれどOriHimeを通じて対話ができる症状を持つ方などがパイロットとして登録しています。

 

理由はさまざまですが、共通して「自分がその場所に行きたいけれど行けない」という事情をお持ちの方に協力していただいています。

 

── 元々OriHimeは卓上型のもののみだったそうですが、カフェでは接客のために店内を自由に行き来していますね。

 

結城さん:弊社には幼少期の事故で脊髄損傷を受け、寝たきりとなった番田という社員が秘書として働いていたのですが、番田が「秘書としてお客さんが受付に来たら迎えに行って、会議室に連れていきたい」と言っていました。そこで大きなサイズで動くことができるOriHimeが誕生しました。

 

結城明姫さん
初期のOriHimeを持つ結城さん

── OriHimeは会社や学校などでの活用が進んでいますが、なぜカフェでの運用に踏み切ったのでしょうか。

 

結城さん:外出困難の方は一度も働いた経験がない方も多く、急に社会にポンと入ることが難しいという課題がありました。これは一緒に創業した吉藤の発想なのですが、体を外に運べる人たちはどのような段階を踏んで社会で働くかと考えたときに、まず学生時代にアルバイトなどをして徐々に仕事というものに慣れていったという意見が出たんですね。

 

それならば、OriHimeもいきなり会社で働くのではなく、第一段階として、華やかで皆さんがやってみたいと思える職種から運用できたらと思い、カフェでの実証に至りました。今後、他の仕事へステップアップしていく上でのステージとして考えています。

 

分身ロボットOriHime
おしゃれな店内でロボットが接客を行うカフェのファンも多い

── カフェには多くの方が来店されていますね。

 

結城さん:私たちはOriHimeを通じて人手の確保もできますし、お客さん側もテクノロジーと触れる楽しさを感じていただけたり、パイロットと会話して気づきがあったりするというご意見をいただきます。純粋にカフェの食事が美味しいという理由で通ってくださっている方もいますし、本当に良い形で実現できたと思っています。

 

カフェを訪れた企業の方がパイロットの方を雇いたいというオファーがありまして、就職支援として企業とパイロットをつなぐ人材紹介業の展開も始めました。

 

── 分身ロボット、OriHimeはどのように誕生したのでしょうか。

 

結城さん:私と吉藤と椎葉の3人で会社を創立したのですが、私は16歳で結核にかかり長期入院を経験しました。そのとき、心は元気なのに外に出たくても出られない孤独を感じていました。

 

指定感染症なのでお見舞いのハードルも高く、家族はマスクをして入れるのですが友達とは会えず、病室の窓も開けられませんでした。病室では携帯電話禁止、Wi-Fiもないためインターネットへのアクセスもできず、病棟の公衆電話を使って電話をしていました。

 

結城明姫さん
高校時代の結城さん。数々のコンクールで実績を残すも、結核にかかり入院することに

修学旅行にも行けなかったのですが、自分の分身がいれば外に行けるのに…と思っていたんです。似たようなバックグラウンドや思いを持っていた3人が集まって開発を進めたのですが、今は治療上、問題がない病棟ではWi-Fiも使える病院が増えてきているのでOriHimeの実証実験をする際にも、問題なく使用できるところが多いです。

 

── OriHimeは企業や学校などで導入がされているそうですが、コロナ禍で認識が変わったと思うことはありましたか。

 

結城さん:孤独を解消したいというミッションが伝わりやすくなったと思います。コロナ禍前にはピンと来なかった方も、外に出られないことや、簡単に人と会えない孤独感というものを共有しやすくなって、OriHimeを利用することへの理解が深まったと思っています。

 

コロナ禍前は人が直接、接客しないことが失礼だという意見もあったのですが、今では接客の分野でも活用いただくケースが増えました。

 

一方で、在宅の方が少人数で、会社にいる方が大人数の場合にOriHimeが会社で活躍していたケースでは、コロナ禍で人が全員テレワークとなって、OriHimeだけが会社にいるというのも変な話ですので、OriHimeのニーズがあるターゲットや分野が変わったように思います。

 

分身ロボットOriHime
スピーカー、マイク、カメラを搭載した分身ロボットOriHime

── 結城さんは小さい頃から研究熱心だったそうですね。

 

結城さん:調べ物が好きな子どもでした。小学校1年生の時にカタツムリを300匹くらい飼って、殻が左向きのものと右向きのものを掛け合わせたらどうなるかという実験をして。高校では蛇口から出る水の中に空気が伸びていくのを見つけて。とにかく理科が好きでした。

 

── カタツムリ300匹を受け入れてくれるご家族が素敵です。

 

結城さん:今、思うとよくさせてくれたなと思いますね。母は私が面白がるものを一緒に面白がってくれていました。カタツムリは、物置きで荷物を入れるような大きな容器に土を入れて広い飼育ケースを作って、玄関で飼っていました。学校では夏休みの自由研究で好きなことを発揮できていましたし、コンクールに出るとなると先生の付き添いも必要なのですが、そこも快く受けてくださったのもありがたい環境でした。

 

スマートフォンなどもそうですが、みんなが想像したものがどんどん実現していく時代だったので、昔のアニメやSFで出ていたものが現実になっていく感覚や新しいテクノロジーは楽しいなと感じていました。

 

私たちはいろいろな方の支えがあってOriHimeを実現できたのですが、自分がどんな社会で生きたいかという自分軸も大切だと思っています。誰かの夢を自分が叶えるというのも素晴らしいのですが、自分がどうなりたいというブレない軸を持つことで、それに共感してくださってご協力いただける方が多くいらっしゃいました。