56歳のときに脳動脈瘤が発見されたDJ KOOさん(61)。取材では「大事な家族に心配をかけてしまったこと」への後悔がにじみました。(全4回中の2回)

突然やってきた命の危機

── 56歳のときに、テレビ番組の企画で受けた人間ドッグで脳動脈瘤が発見されました。それまで自覚症状はあったのでしょうか?

 

DJ KOOさん:いえ、まったくありませんでした。脳梗塞やくも膜下出血は、自覚症状がないまま血管の損傷が進んで、ある日、突然発症し、最悪の場合は死に至る。「サイレントキラー」と呼ばれるゆえんはそこにあります。

 

それまで大きな病気も入院もしたことがなかったので、自分の体を過信していました。そんななかで、脳動脈瘤が発見され、いつ破裂してもおかしくないという状況。命の危機に直面し、人生で初めて「一週間先に、自分がこの世に存在していないかもしれない」という不安に駆られ、地に足がつかないような感覚に陥りました。目の前にいる大切な家族と二度と会えないかもしれない。想像するだけで胸が張り裂けそうでしたね。

 

── 6時間半にも及ぶ大手術だったそうですね。

 

DJ KOOさん:脳動脈瘤の手術には、細長い管を血管内に入れて行う手術と頭に直接メスを入れる開頭手術があるのですが、僕の場合は、脳動脈瘤が9.8ミリとすごく大きいうえ、左目の後ろにあって。視神経を圧迫していて、手術で失明する可能性もあると言われました。しかも、脳動脈瘤が大きいので、破裂を防ぐために、首の後ろまで切らないといけないと聞き、すごく怖かったんです。

 

でも、不安でいっぱいの僕に、番組で病気を発見してくれた執刀医の先生は「患者さんが命をかけて手術台に上がるのですから、私も医者として自分のすべてをかけます。KOOさんの病気を手術するのではなく、人生を手術するんです。再び元気な人生を歩めるようにしますから」と力強く言ってくださいました。その言葉に、僕も家族もすごく救われて、手術に挑む決心がつきましたね。

 

執刀医の力強い言葉に自身も家族も救われた

開頭手術を終えた僕に娘は泣いてすがった

── ご家族もさぞかし心配されたでしょうね。

 

DJ KOOさん:妻と娘には本当に心配をかけてしまいました。娘はわりとクールで気丈な性格なんですが、手術が終わって手術室から出てきた僕に「パパ、大丈夫!?」と泣きながらすがりついていたそうです。麻酔でふらふらしていたので、あまり覚えてはいないのですが…。

 

術後、地獄のような痛みが2〜3日続いた後、徐々に体調が回復してきたので「何か音が欲しいな」と娘に伝えたら、「いつも私が聞いているのでいい?」と言われたので、それでいいからとお願いしたんです。

 

すると、流れてきたのは、僕たちTRFの曲。定番のヒット曲だけでなく、アルバムの中から自分で好きな曲をいくつもピックアップしてプレイリストを作っていました。日頃はそんな素振りを見せないのに、実はこうして僕の音楽をずっと聞いてくれていたんだなと思うと、胸が熱くなりましたね。

病気で変わったカッコいいの基準

── 大病をすると人生観や価値観が変わると言います。KOOさんはいかがでしたか?

 

DJ KOOさん:僕も随分変わりましたね。病気を経験し、家族を大切に思う気持ちがいっそう強くなりましたし、仕事に対するマインドも変わりました。今までは「DJとしてカッコいい仕事をしてやるぞ」とか「カッコいい自分を見せたい」という気持ちが強かったんです。

 

でも、大病を患い、いろんな人の力で命を繋いでいただき、こうしてまた元気に過ごせるようになった。とてもありがたいことだし、「再び命をいただいたようなもの」だと思っています。

 

生かされた命をこの先どう使うかと考えたとき、「人を元気にしたい」という気持ちが湧き上がってきたんです。僕がDJをしたり、バラエティに出たりすることで、誰かを元気にすることができるなら、すごく嬉しいし、本当のカッコよさというのは、そうしたなかで生まれてくるものなんじゃないかなと思うようになりました。

 

大阪芸術大学で客員教授として講義を行うKOOさん

──「人を元気にしたい」という気持ちで仕事に向き合う。そこにカッコよさがあると。

 

DJ KOOさん:逆に、カッコつけなくなったことで、自分の世界が広がりました。ゲームコンテンツやアニメ、アイドルの人たちなど、いろんなジャンルの人に声をかけてもらえるようになり、新たな刺激を受けています。

 

病気をして以来、みんなを喜ばせ、笑顔にできる人が、僕の目指す「カッコいい人」になりました。それは、どんな仕事でも同じ。何かを企画して喜ばれたり、商品を売って喜ばれたり、美味しいものを作って喜ばせている人もみんなカッコいい。そう思っています。

自分の体を大切にするのは家族のためでもある

── 病気を経て、家族との関係性に変化はありましたか?

 

DJ KOOさん:命は有限だと実感し、家族と一緒に過ごす時間をより大切にしたいと思うようになりましたし、チームワークは以前に増してよくなりました。番組に出演するときの事前アンケートなんかも一生懸命に協力してくれるし、僕の出演番組は必ずチェックして、感想を伝えてくれます。

 

ありがたいのが、絶対にダメ出しをしないこと。毎回、「ここがよかったよ」「面白かったね」と、ポジティブなことしか言わないんです。僕が、「今日はダメだったな…」とヘコんでいるときも、「全然そんなことないよ!面白かったしよかったよ」と励ましてくれます。

 

家族イベントを大事にしているKOOさん一家。チームワークは抜群

── 最強の応援団ですね!

 

DJ KOOさん:ありがたいですよね。家族が病気になると、家庭の中がどんよりと暗くなり、周りはすごくつらい。自分の体を大切にすることは、家族を大切にすることでもあるんだなと痛感しました。

 

娘にとっても僕の病気は大きなターニングポイントになったようです。父親を救った医者や看護師さんなど関わってくださった方への敬意をきっかけに医療の道に興味をもったようで、医療系の大学に進みました。今は大学院でさらに学びを深めています。

 

大病を経験し、こうして復活できた僕だからこそ、いろんな人に病気のことや予防の大切さを呼びかけることをライフワークにして、つらい思いをする人をひとりでも減らしたいと思っています。何より大切なのは、検査をして早期発見、早期治療をすること。皆さんもどうか気をつけてくださいね。

 

早期発見、早期治療で長生きDO DANCE!

 

PROFILE DJ KOOさん

1961年生まれ、東京都出身。ダンス&ボーカルグループTRFのDJ、リーダー。ソロとしては、“触れ合う人々をエネルギッシュに!元気に!笑顔に!”をモットーに幅広い音楽をDJスタイルでプレイし、共感、賛同を得ている。バラエティー番組にも多数出演。幅広い層のファンを獲得している。

 

取材・文/西尾英子 写真提供/DJ KOO