アナウンサーからスタートアップ映像メディアのプロデューサーに転身した元TBSの国山ハセンさん。順風満帆なキャリアを捨て、新たな道を歩みだした彼が伝えたいこととは。(全5回中の3回)

 

国山ハセンさん

細かい台本や演出は「あえてしない」

── アナウンサーから制作側に軸足を移してみて、今いかがですか?

 

国山さん:めちゃくちゃ大変ですね。知っているようで知らなかったことがたくさんあります。

 

これまでは、スタッフにいろいろ準備してもらったうえで、アナウンサーとして伝えるという役割でした。制作には関わっていたとはいえ、今のように予算を管理したり、KPIが課されたりすることもなかったですし。

 

今は、出演しながら制作もするという、半々くらいでやれているので、ある意味おいしいポジションだな、とは思います(笑)。ただ、自分がやりたいことをどうディレクターに伝えるかといった大変さはあります。

 

国山ハセンさん
プロデューサー兼タレントとして、制作に軸足を置きながら出演もこなす国山さん(写真提供/本人)

── キャスティングもご自身でやっていらっしゃるんですか?

 

国山さん:そうですね。全部自分でやります。むしろキャスティングが一番大変な仕事です。問い合わせフォームから自分でメールを送って、広報さんとやりとりをしたり。当然、断られることもたくさんあります。それこそギャラ交渉も自分でやっています。

 

そういう意味でも、人に会うことも仕事のひとつになりました。いろんな人を紹介してもらったり、スタートアップの経営者や、様々な分野のアカデミックな人に会ったり。

 

僕は細かい演出とか台本を仕上げるとかはまだできないですし、そこは依頼すると決めています。「僕の番組だったら出ます」という人をキャスティングできたり、企画のコンセプトを考えるのが仕事だと思っています。何を聞きたいか、何を伝えたいか、それをどういう制作チームでつくるのか、といったことも当然自分次第。難しいですが、楽しさと両立しています。

 

── ウェブは、テレビ以上に反響がはっきりと見えますよね。一生懸命つくりこんで送り出したものが、全然再生回数が伸びない、とか…。

 

国山さん:それは実はつい最近もありました(笑)。でも、そこはしょうがないかな、と。結果は意識せざるを得ないので、どうやったらいいものになるのかを考え続けるしかない。

 

今いくつか番組をやっていますけど、出演するだけのものもあれば、企画会議から参加しているものも多くあります。リアクションやコメントにはポジティブなものもあるので、素直に喜んで、次に生かそうとしています。

 

国山ハセンさん
スラリとした長身で、ユニクロのCMにも起用されている国山さん

誰か1人の人生を変えるような番組をつくりたい

── どういう番組をつくりたいですか?

 

国山さん:僕は今、30代をターゲットにした番組をやっているのですが、元々は「背中を押せるような番組にしたいな」と思っていました。転職したことで、自分も同世代の人から話を聞かれるようになって。モヤモヤしているんだけど、踏み切れない人はたくさんいるんだな、と感じました。そんな人たちに「挑戦はリスクだと思っている人が多いけど、そうじゃないんだよ」と伝えたいと思ったんです。

 

ただ、そういう番組は他にもけっこうたくさんあって。だから、今は、企業にいる人でもそうでなくても、内向きにならずちゃんと外を向く大切さを伝えたい、という思いがありますね。

 

正直に言うと、目先の「100万回再生」とかって、実はあんまり求めてなくて。極端な話、1人でもめちゃくちゃ刺さって、その人の人生が変わればいいと思って番組をつくっています。そこがテレビとは違うな、と。

 

テレビはマスに向け、何千万人という人にリーチさせないといけない。だからテーマが抽象化したり、ぼやっとしてしまったりする部分があると思います。でも今僕は、誰かペルソナを決めて、その人に刺されば成功だと思っています。

 

── そういう番組づくりのために意識していることはありますか。番組内では、ご自身の悩みを素直に打ち明けていらっしゃるのかなと感じました。

 

国山さん:そうですね。等身大でいるのはもちろん、その通りです。

 

あと、アナウンサーのときは、要点を整理してもらった台本を覚えて、自分がそこにプラスアルファして質問をして、カチッとしたインタビューにすることが多かったんです。でも今は、台本は一切作らず、その場で聞きたいことを聞いています。雑談みたいな感じで対話するのがいいな、と。

 

国山ハセンさん
現在は30代向けの番組制作に携わっているそう

── 雑談、ですか?

 

国山さん:はい。一番大切にしているのは、自分の熱量なんです。だから悩みも普通に言えるし、自分をさらけ出して「聞きたいんだ」という思いが乗っかると、誰かに刺さるコンテンツになると思うので。

 

例えば、(EXITの)りんたろー。さんと一緒にやっている、資産形成をわかりやすく解説する「マネースキルセット」という番組だと、裏回し的というか、番組が面白くなるための立ち振る舞いを考えたりもします。

 

ただ、すべてにおいて、自分がちゃんと関心があって、熱量が乗っかってこないとダメだなと思っています。

 

── 今気になっているテーマはありますか?

 

国山さん:先日、海外出張に行ったんです。フランスのパリとフィンランドのヘルシンキに行って、スタートアップの取材をしに行きました。とてもレベル高くて、めちゃくちゃ意識高くなって帰ってきました(笑)。自分の挑戦なんて、全然甘かったなと思って。たった1週間なんですけど、武者修行になりました。

 

外の世界を見ることがいかに重要かを痛感しましたね。自分が見てきたものや、今世界がどうなっているのか、ちゃんと伝えたいなと改めて思います。

 

国山ハセンさん
今年5月取材のためパリを訪れた国山さん。海外情報も積極的に伝えたいと意気込みます(写真提供/本人)

── 国山さんには、身近な感覚から外れずに経済を伝えてほしいという期待もあると思います。

 

国山さん:おっしゃる通り、僕の強みとしては「よりわかりやすく等身大に伝える」ということですかね。そこが持ち味だと思っています。

 

ただ、だからこそなおさら、視座が高い人たちに会って話を聞いて、それを伝えるにはどうしたらいいかを考えたいな、と。そのために、僕自身がいろんな世界をちゃんと見ることが重要かなと思っています。

 

PROFILE 国山ハセンさん

プロデューサー・タレント。1991年生まれ。2013年TBSにアナウンサーとして入社。「アッコにおまかせ!」「news23」などで活躍。2023年1月から映像メディア「PIVOT」に参画。

 

取材・文/市岡ひかり 撮影/植田真紗美