芸能界で華やかに活躍する最中、結婚を機に田舎暮らしを始めた佐藤藍子さん。乗馬クラブでも働く現在の暮らしぶりは…。

移住のきっかけは「競走馬の悲しい現実」を知って

── 馬に興味を持たれたのは、ご両親の影響だったそうですね。

 

佐藤さん:両親が趣味で競馬を始めて、私もその影響で興味を持ちました。初めて競馬場に行ったとき、馬が颯爽と走る姿に感動して、どんどんハマっていきましたね。

 

── 競走馬についても調べていたそうですね。

 

佐藤さん:レースで華々しく活躍しているけど、引退した馬はどこにいくんだろうって思ったんです。馬の寿命を調べてみると、馬はだいたい25歳くらい…、30歳まで生きると長生きなのかな。そのなかで、競走馬は2歳くらいにデビューして、ピークが3歳から5歳あたり。7歳くらいになると引退する馬が多く、引退後の暮らしのほうが長いことを知ったんです。

 

── 引退した競走馬は、どのような道に進むのでしょうか?

 

佐藤さん:乗馬クラブに引き取られる馬もいれば、残念ながら処分されてしまう馬もいます。乗馬クラブの受け入れ先は圧倒的に少ないんです。

 

また、受け入れられたとしても、新しい環境にすぐに馴染めるとは限りません。競走馬はそれまで、とにかく早く走るように調教されてきますが、乗馬クラブではゆったりと走ることを求められるので、環境に合わせた訓練が必要なんです。競馬がカーレースだったら、乗馬クラブは軽自動車とか乗用車という感じでしょうか。

 

さらに調べていくと、引退した馬をサポートする会があることを知りました。私にも何かできることはないかと思って入会を決意して。その集まりで出会ったのが、今の義理の母です。

 

義理の母は、もともと乗馬クラブを経営していて、それとは別に引退した馬をサポートする会を立ち上げた方でした。今、その会は大きくなって、私は会自体からは離れましたが、今でも何か力になりたいと思いながら過ごしています。

結婚を経て趣味が家業になった 

青空のもと、馬と一体感を味わう

── 初めて「サポートする会」に参加した日に、乗馬も体験されたそうですね。

 

佐藤さん:「遠いところから来たし、せっかくだから乗馬も体験してみませんか?」って、言ってくださったんです。初めて乗馬を体験して、当日乗馬クラブに入会しました。

 

── もともと乗馬クラブに入る予定もあったんですか?

 

佐藤さん:全然考えてなかったです!「入会金」って言われたときに、意外とお金がかかると思ったくらいで(笑)。でも、初めて馬の背中に乗ったときの視界の高さとか。馬と一体感を味わう感じが、なんとも心地良かったんですよね。

 

あと、当時29歳でしたが、子どもの頃からずっとインドアで、体を動かすような趣味もなかったんです。周りからも体力をつけるような運動をしたほうがいいよって言われていた時期だったし、自分でもこれを逃したら2度とアクティブなことをしない気がして。合わなければ辞めればいいし、自分への投資でまずやってみよう…と始めてみたら、気づいたら移住しちゃってました(笑)。

 

── お仕事のストレス解消も兼ねて、始めたというのはありますか?

 

佐藤さん:それは後づけでしたね。乗馬は、スポーツジムとリラクゼーションとエステが一緒になった感覚もあるんです。体幹も使っていい運動になるし、馬に乗る前、乗った後にも「よろしくね」「ありがとう」って挨拶したり、馬のお手入れをしている時間も、すごく癒やされるんですよ。芸能のお仕事は常に気が張っていたので、馬と一緒にいるととてもリラックスできるんだなって。

 

── 乗馬クラブでは、馬に乗るだけではなく、馬のお手入れもするのですね。

 

佐藤さん:乗馬クラブのスタイルにもよりますね。乗馬クラブ側で全部お手入れをして、生徒は馬に乗るだけのところもあれば、お手入れも含めて教えてくださるところもあります。ただ、乗馬をされている方は、お手入れも含めて馬が好きになっていく人が多いのかな。最初は、道具の準備も大変だし、手入れも大変なんですけど、自分でだんだんできるようになると嬉しいし、愛着も増してくるんです。乗馬は、お馬さんがいないとできないスポーツというところも、好きになったひとつですね。

 

馬小屋で癒やしの時間を過ごす佐藤さん

── 今は乗馬クラブでインストラクターをしている旦那さんとご結婚されて、乗馬が趣味から家業になりました。

 

佐藤さん:家業にはなりましたが、義務で馬のお世話をしている感じがまったくないんです。結婚する前、乗馬クラブの生徒だった頃から馬のお世話が楽しくて、馬のブラッシングから馬のお部屋のお掃除も率先してやってました。お馬さんが気分良く走ってきた後に、自分の部屋が汚かったら嫌だろうなと思って、馬のウンチを取ったり、せっせと綺麗にしていたんです。「お客さん、そこまでしなくていいんですよ」って言われましたが(笑)、それくらい普通にやってましたね。移住した今は、毎日と馬と一緒に過ごせるので心から穏やかです。

 

PROFILE 佐藤藍子さん

1977年生まれ。神奈川県出身。93年ドラマ「ツインズ教師」(EX)にてデビュー。ドラマ『総理と呼ばないで』や『篤姫』(NHK)などに出演。

 

取材・文/松永怜