毎年、GW頃から増え始める水難事故は、警察庁によると2021年には約1400件起きていて、そのうち740人以上が死亡または行方不明になっているということです。

 

厚生労働省統計(2010〜2014年)によると3歳から14歳までの子どもの不慮の事故による死因のうち、屋外での溺水は交通事故に次いで多く、一度起きると重大な事故に繋がる可能性が高くなります。川での子どもの事故を防ぐために、今すべき対策を公益財団法人 河川財団 子どもの水辺サポートセンターの菅原さんにお話を伺いました。

川での事故は海の2倍以上

── 子どもの水難死亡事故のうち、6割以上が川などで起きていると伺いました。

 

河川財団 菅原さん:2003〜2021年までの統計では、川や湖などで亡くなった子どもの数は海で起きた事故の2倍以上になります。それだけ川は子どもにとって身近で、事故にあいやすい場所だとも言えます。

 

川の流れ
赤い点線は通称「エディーライン」。反転流と本流の速い流れがぶつかり、下向きに引っ張られる流れが発生する

── 水難事故が起きる時期に特徴はありますか。

 

河川財団 菅原さん:報道情報をもとに収集したデータ約3000件を分析したところ、あたたかくなる5月のGW頃から増え始め、8月が1年で最も多くなり、7月と8月の2か月で年間の半数を占めていることがわかりました。

 

子どもの不慮の事故による死因で最も多い交通事故は、シートベルト着用の意識や車の技術の進歩などから減少傾向にありますが、川などでの事故の発生件数は過去10年にわたって横ばいです。自然を対象とすることもあって事故につながるリスクの予測がつきにくいことが理由だと思います。

 

── 友人と集まって川辺でBBQなどを楽しむ方も増える時期です。

 

河川財団 菅原さん:今くらいの時期ですと、川の中に入って遊ぶというよりも河川敷で遊んでいて転落して流されたり、深い場所へ沈んだりするなどの事故事例が多く見られ、ライフジャケットも装備していないことが多いです。

 

報道情報から収集した過去18年で起きた川の事故のうち、6割以上がグループで行動していた時に発生しています。大人のグループが最も多く、次に家族連れが多くなっています。

 

川で溺れる
ライフジャケットを正しく装着すれば水面から顔を出して呼吸ができる

このデータからみても大人がいるから安心とは決して言えません。多くの人がいることで誰かが見ているだろうという油断にも繋がりますし、大人はキャンプの設営やBBQの準備などをして気を取られている場合もあります。

 

大人のグループですとお子さんも複数人いることがありますので、すべての子どもを常時見ていることは難しいです。それに子どもは予期せぬ行動を取ることもあるので、数秒目を離しただけで事故に繋がることもあり、呼吸ができない状況であれば1分で致命的な状況になります。

 

事故が起きないように注意して見ていることはもちろんですが、川の近くに行く際は必ずライフジャケットを着用することを徹底することで水難事故の多くを防ぐことができます。何かあっても浮いていることで呼吸ができ、救助までの時間も稼げます。

 

── 一見すると穏やかで浅そうな川でも子どもが流されてしまう場合もあります。

 

河川財団 菅原さん:川には流れがありますので、陸上の活動とは大きく違います。たとえば1秒で1メートル流されるような川では10秒で10メートルも移動させられます。また、川には浅いところと深いところが混在していますので、一歩踏み込んでしまえば陸地から大人が見ていても急にいなくなってしまうこともあります。

 

── どういうことでしょうか。

 

河川財団 菅原さん:川の深みに入ってしまった場合は、映画で見るような、「助けて!」とバタバタしているような状況にはならず、スッと落ちて沈んでいってしまう状況になりますので、陸から見ていても「気づいたらいない」ということになります。

 

川の流れ
穏やかな円状の流れと本流の速い流れがぶつかると下に引っ張られる流れが発生する

── 浮かずに沈んでしまうんですね。

 

河川財団 菅原さん:人間自身の浮力に肺の空気が合わさっても浮力はせいぜい、頭のてっぺんが浮くくらいです。また、立ち泳ぎのように垂直方向に手足でかき続けないと水面から顔が出るまでは浮きません。小さいお子さんですと泳ぐことも難しいですし、沈み込んで水を飲んでしまうことでさらに状況が悪化します。

 

プールでは泳げるとしても、流れがある川では複雑な方向からの大きな力が体に加わり泳ぎにくいので安心はできません。ライフジャケットさえ正しく着用していれば体が浮いて常に呼吸ができますので、呼吸ができていれば致命的な状況を防げます。