でんぱ組時代から、モデルや女優業などソロとしても忙しく活躍していた最上もがさん。2017年に「心身のバランスが取れなくなった」とグループ脱退を発表。脱退後にはうつ病を告白しました。一度は芸能界引退を決意するも、再びこの世界に戻ってきた理由とは。

 

自身の半生を綴った初のフォトエッセイ『も学 34年もがいて辿り着いた最上の人生』を上梓した最上さんに伺いました。(全5回中の2回)

 

脱退3年前から心の不調…「諦めずに走り抜けていたら力尽きてしまった」

── お仕事がお忙しくなるなかで、心身のバランスを崩され、2017年8月に脱退を発表されました。ご自身の体調が危ないという兆候はあったのでしょうか?

 

最上さん:いちばんツラくなったのは2014年ごろでした。簡単に言えば信じていた気持ちを裏切られる出来事があり、そこから毎日笑えなくなってしまって。どうにかして自分のメンタルを保ちながら、グループを有名にすることを諦めたくないと走り抜けていたら、2017年にその力が尽きてしまった、という感じでした。

 

最上もがさん
でんぱ組inc.のツアーと並行してドラマの撮影をこなすなど多忙な日々を送っていた(写真提供/本人)

── 前々から脱退を考えていたのではなくて、突然気持ちの糸が切れてしまったのですね。

 

最上さん:先日発売したエッセイに初めてその詳しい経緯を書いたのですが、その年の会議中に大きな精神的ダメージを受けてしまったんです。3年前からひきずっていた出来事がずっと心に残っていて、少しずつ心が削れていたのかなと思います。「もう必要とされていないし邪魔者なんだ」とすごく思い詰めてしまい、辞めようと思ったんです。

 

それまでは辞めるつもりなんてなかったので、それまでは辞めるつもりなんてなかったので、次の目標や夢もまったくない状態でした。脱退時にネットニュースで「女優になるために抜けた」と書かれたことがあったのですが、それは私の意図するものではなくて。当時のブログにあげた「心身ともに疲れてしまった」というのが真実でした。

ライブの記憶がないことも…「もうパンクしていたのだと」

── 心も身体もいっぱいいっぱいの状態だったのですね…。

 

最上さん:もうとっくにパンクしていたのだと思います。本当に忙しいシーズンは、ライブの記憶がないこともありました。どうにかしたいとは思いつつも、忙しくて心療内科に行く暇もなく、「体調管理も仕事のうちだ、もっと売れてる人たちはもっと忙しい」と言われて、自分がただ劣っているのだと感じていました。

 

脱退して少し時間ができてから「このままではいけない」と治療に通い始めました。なのでちゃんと「うつ病」だと診断されたのは、脱退してからだったんです。

 

最上もがさん
脱退後にうつ病との診断を受けた最上さん。自身のYouTubeチャンネルを通じて公表していた

── 計り知れないご苦労や葛藤があったかと思います。芸能の仕事を辞めるという選択肢もあるなかで、この世界に戻ろうと思えたのはなぜでしょうか?

 

最上さん:脱退したときはもう辞めるつもりでした。ただ親しかった方にフリーのマネージャーさんを紹介されて、「仕事に困っているから辞めないでほしい」と強く引き止められたんです。ひとりで芸能のお仕事をしたいという気持ちはなかったのですが、「その人を助けるため」と。途中で心が折れることもあり、マネージャーさんも辞めてしまいましたが、結果的にでんぱ組時代のスタッフと再会し、二人三脚で仕事をするようになり、それが今でも続けていられる理由になっています。

芸能の仕事を続けられたのはファンの存在と“ギリギリの理性”

── そばで支えてくれる人の存在が大きかったのですね。

 

最上さん:何よりファンの方々が離れてしまったら続けることはできなかったと思います。少数精鋭でずっと応援してくれる人たちに励まされてきました。アイドル時代から「自分が大きくなったら、必ずもがちゃんと仕事がしたいから、表に出られる限りはずっと出ていてほしい」というお手紙をもらうこともあって。辞めようと思えばいつでも辞めることはできたけれど、それでも続けようと思えたのは、ファンの人たちの存在と、自分のギリギリの理性というか…。

 

── ギリギリの理性、というのは?

 

最上さん:この仕事を辞めてしまえば転職しなきゃいけないということになりますよね。生きるためには稼がなきゃいけない。辞めて次の職場に移ったら、そこでまた一から頑張らなきゃいけないですよね。何かを続けるためにはある程度の我慢が必要で、何かを成功させるためにもある程度続けなければいけない。

 

アイドルを辞めたときはそんなことを考える余裕もありませんでしたが、今は自分が苦しい思いをしながら頑張って積み重ねてきたものを、バッと手放してしまうのが寂しくて悔しいという気持ちもあります。

 

最上もがさん
二人三脚で歩んできた現スタッフ、変わらず応援してくれるファン、そして最愛の娘のためなら頑張れる

── 今はお仕事のモチベーションはどこに向いているのでしょう?

 

最上さん:脱退してからも、誰かしらは周りに支えてくれる人がいたので、その人たちのために「頑張ろう」と突っ走ってきたら、今のスタッフと再会することができました。今は彼女のためにと思えるし、向こうも子育てしているので一緒に頑張ろうかなって。何より今は、娘のためにという気持ちも大きいですね。最終的には自分のためになるとは思うのですが、多分私一人だったら何もできていません。誰かのために、と思うからこそ頑張れるのだと思います。

 

PROFILE 最上もがさん

1989年生まれ。東京都出身。2011年アイドルグループ「でんぱ組.inc」に加入し芸能界デビュー。2017年8月にグループ脱退。脱退後は、個人事務所を設立しマルチに活動中。2021年に第一子出産。

 

取材・文/荘司結有 撮影/植田真紗美