全国に展開する学生服リユース店「さくらや」には、地元の高齢者が名前などの刺しゅうの糸取りをし、障がい者就労支援施設が洗濯を請け負った制服が並んでいます。代表の馬場加奈子さんは、障がいのある長女を含め3人を育てる母親。馬場さんに、高齢者や障がい者が活躍する地域づくりへの思いについて聞きました。(全4回中の3回)

 

馬場加奈子さん
障がいを持つ長女を含め3人を育てる馬場さん

障がいを持つ長女が安心して働ける場所を

── お子さまの障がいが、起業を志したきっかけのひとつだと伺いました。

 

馬場さん:私には3人子どもがいるのですが、長女は生まれつき障がいを持っています。「この子が大きくなったときに、安心して働ける場所をつくりたい」と思ったのが、起業した理由のひとつです。

 

でも、場所をつくると言っても当時の私はシングルマザーになったばかり。家賃すら払えない生活でした。

 

まずは生活を安定させようと保険会社に就職しましたが、そうしたら今度は朝から晩まで働くことになって子どもたちとの時間がない。なので、「子どもとの時間を優先しながら稼ぐ」が、起業した最大のきっかけです。

 

起業した時点では「障がいのある人が安心して働ける場所をつくる」というのは、まだまだ壮大な夢でした。

地域を巻き込む事業がSDGsだと評判に

── さくらやでは、リユース用制服の刺しゅうの糸取りは地域の高齢者に、洗濯は地域の障がい者就労支援施設に任せているんですよね。

 

さくらや
「地域でつくる」さくらやの事業は地域貢献を目指す

馬場さん:さくらやを始めた当初は、全部自分でやっていた作業です。でもある日、お店に来たおばあちゃんとの雑談のなかで、「体操着の刺しゅうの糸取りに、1枚30分もかかる」とこぼしたら、その方が「裁縫得意だから、やってあげようか?」って言ってくださって。そこから、地域の高齢者にお任せすることになりました。

 

制服の洗濯を地域の障がい者就労支援施設にお任せするようになったのは、長女の通う施設を訪ねたのがきっかけです。

 

障がい者の方々が箱折りの作業をしているのを見かけて、箱折りができるなら、洗濯物を干す作業もできるんじゃないかと思って。施設の方に相談してみたら、「作業工賃になって、社会との繋がりになるならありがたい」と言ってくださり、お任せすることにしました。

 

── 地域の人たちを巻き込んでお店を創りあげているんですね。

 

馬場さん:そうですね、結果的に地域を巻き込んで一緒にビジネスを創りあげています。その点について、最近は「SDGsだ」とか「循環社会を実現している」とか、評価いただくことも増えました。

 

起業当初は「そんなビジネス成り立たない」と言われていたのに、時代によって人の評価って変わりますよね。

 

子どもを持つ母親の働きやすさ優先の営業体制についても、2015年に女性活躍推進法が制定された途端、「率先して女性が働きやすい体制を整備している」とか「時代を先取りしている」とか、評価されるようになりましたし(笑)。

 

馬場加奈子さん
常に明るい語り口の馬場さん

── 社会で必要とされていることと、ビジネスの両立を目指す馬場さんの活動に時代が追いついたのかもしれません。

 

馬場さん:ただ、地域活動とビジネスの歯車を合わせるのって、本当に難しいんです。地域活動に重きを置くと、非営利活動団体やボランティアになってしまう。だから、「珍しいビジネス」と言われるんでしょうね。

「障がい者の居場所づくりの夢」今こそ叶える

── 創業後7年間高松店ではママの相談支援や、子ども向けイベントを開催していますね。

 

馬場さん:開催する目的の第一は地域の役に立ちたいというものですが、こうした活動はさくらやを知ってもらうきっかけにもなると思っています。

 

お客さまが「うちの子に、新聞を読んでほしい」と悩まれていたら、子どもたちを集めて新聞教室を開いたり、ママたちの声を拾っていろいろなイベントを無料で開催していました。

 

他にも、養護学校の卒業生の居場所として、「にちよう会」を月一回開催していました。

 

コロナ禍でずっとお休みしていましたが、先日3年ぶりに自転車交通安全教室を開きました。にちよう会メンバーで警察の方にお話を伺い、勉強させてもらいました。

 

にちよう会の様子

── まさに地域に役立つ活動ですね。

 

馬場さん:長女や、職業体験で受け入れる特別支援クラスの中学生たちを見ていると、障がいを持っていても、いろんなことができるようになるのがわかります。その姿を見ていると、彼らももっと社会との関わりを持てるはずだと思うんです。

 

ただ、社会との関わりを増やすには、障がいを持つ子にも、人との関わり方や性教育といった社会性を教える場が必要です。社会性って、養護学校や親が教えるのは難しいと思うので、にちよう会を通じて伝えていきたいです。

 

── これから挑戦したいことはありますか?

 

馬場さん:長女が生まれてからずっと描いていた夢を叶えたいですね。高齢者や障がい者、マイノリティの人が活躍できる地域づくりに取り組んでいきたいです。

 

2020年に福島県郡山市で、理想の障がい者就労支援施設に出会ったんです。施設を見て、「私も夢に向かって進まないと」と決意しました。

 

今、高松で施設を建設中で、地域のマイノリティの人が活躍できる場所づくりを進めています。長女を出産してからずっと心に抱いていた夢を叶えるときが、ようやく来ました!

 

PROFILE 馬場加奈子さん

香川県生まれ。シングルマザーとして3人の子どもを育てるなか、制服の購入に苦慮した経験から、2010年全国初の学生服リユースショップ「さくらや」を開業。育児優先の企業姿勢が評価され、ウーマン・オブ・ザ・イヤー子育て家庭応援ビジネス賞ほか、受賞多数。知的障害のある長女の子育て経験から、マイノリティの居場所づくりにも力を注ぐ。

 

取材・文/笠井ゆかり 撮影/二瓶 彩 画像提供/馬場加奈子