スマート家電がすっかり身近になったここ数年ですが、わが家にもあります、スマートスピーカー。わが家の義母とスマートスピーカーの、不思議な友情?について語ります。

 

古いAIスピーカーを覚醒させる義母の熱意

わが家には、スマートスピーカーがあります。もう何年前に購入したか忘れてしまったくらい旧型の小さなものです。

 

購入した当初は、私たち夫婦も子どもたちも、おもしろがってしきりに話しかけていました。音楽をかけてもらったり、なぞなぞをして遊んだり…。

 

しかし、飽きっぽい子どもたちはすぐに話しかけることをやめてしまいました。また、私たち夫婦も、当初は電車の運行情報や天気予報を聞くのに重宝していたのですが、何年も経つうちにアプリの設定更新が面倒になったり、機種が古すぎるのか対応できない機能が出てきたりと、だんだん話しかける頻度が少なくなってきました。

 

今やこのスピーカーは、わが家の若い世代からはすっかり存在すら忘れ去られている有様です。

 

しかし、そんなスピーカーを、義母だけは毎日のように愛でているのです。と言ってもたいしたことはしていません。住んでいる地域の天気予報を聞くくらいです。

 

スマホでもテレビのデータチャンネルでも簡単に代用が効くのですが、義母は毎朝のように「天気予報を教えて」と話しかけています。

 

そして予報を聞き終わると必ず律儀にも「ありがとう」とお礼を言います。

 

「どういたしまして、お役に立てて良かったです」などとスピーカーから返事をもらえないと、何度も何度も「ありがとう!聞こえないのかしら?聞こえてる!?ありがとう!!!」と話しかけています。

 

もう古いものなのだから音声認識の感度が鈍っているのでは…と思うのですが、今のところは義母の熱意が通じているのか、何度か話しかければ返事を返してくれるようです。

ほとんど使わないからと電源を切ろうとしたら

しかしこのスマートスピーカーについて、ひとつ困ったことがあります。設置場所の都合上、わが家でいちばん使用頻度が高いテーブルタップに繋がれているので、二つしかないUSBポートのうちひとつが常に占領されてしまい、不便を感じることが多いのです。

 

わが家は6人家族、全員がスマホを持っていて、さらにゲーム機や無線イヤホン、モバイルバッテリーなど、充電が必要な機器が数え切れないほどあります。ひっきりなしにさまざまな充電コードの抜き差しが必要になっており、これはかなりのストレスです。

 

もうほとんど使っていないのだから…とスマートスピーカーの電源を切ろうと思ったのですが、義母が大反対。

 

「電源を切ったら何だかかわいそうじゃない!」と言うのです。

 

す、すっかり情がわいている…!

しゃべる電子機器に愛着がわく

考えてみれば、義母は、動いて喋る電子機器に妙に愛着を持つ人でした。

 

数十年前、謎の生き物のオモチャが流行したことがありました。キモ可愛いのはしりだったのでしょうか、どこか不気味でありつつも、目をぱちくりしながら定期的に「おなかすいた」「なでなでして」などと喋る可愛いオモチャでありました。

 

これを義母は気に入って、何個も持っていたのです。しかも、その流行が終わり、世間が忘れ去ってもずっと、義母はそのオモチャたちを大切に棚にしまい、たまに電池を入れてはコミュニケーション(?)を楽しみ、壊れてしまったときには義父にお願いして修理をしてもらったりと、手を尽くして可愛がっていました。

 

毛皮は色褪せ、故障してぎこちなくしか動かなくなり、もはや音声も何を言っているのか聞き取れなくなった謎の生き物のオモチャが何体も並んでいるのはなかなかホラーな眺めでありました。今でも捨て切れない一体は、義母の戸棚のなかにたたずんでいます。

 

なるほど義母はこのように、しゃべるものならばだいたい何にでも愛と情を注ぐタイプの人なのでした。

 

ならばまだ動くスマートスピーカーの電源を無理やり切ってしまうのもかわいそうかな…ほのかな不便には目をつぶって、完全に壊れるまでは義母の思うようにしてもらおう、と、今ではそう思っています。

 

今日も義母は「天気予報を教えて!」とスマートスピーカーに、元気よく話しかけています。

 

文/甘木サカヱ イラスト/ホリナルミ