「自分は亡くなったきょうだいの身代わり」と思い込む子も
「親やきょうだいを亡くした子どものサポートも行き届かなかった」と、志村さんは話します。
「どんなに小さな子でも、『自分は亡くなったお姉ちゃんのために我慢しなきゃいけない』と気を張っていたり、親から『早く大きくなってね』と言われて兄の身代わりのつもりでいたり。なかには、ランドセルを買いに行っても親に気を遣って上の子が好きだった色を選んでしまうような子もいました。
そういった不安定な状態は12年経った今でも続いています。自傷行為をする、きょうだいを亡くした子どももいます。
一人ひとりに集中して向き合わないと精神状態は改善されないし、復学もできない。ただ、そのうち、母親のこころの状態が安定すれば子どもも落ち着いていくことがわかってきて。だから、子どもも大人も包括して支援するために、団体を立ち上げたんです」
志村さんが一般社団法人こころスマイルプロジェクトを設立したのは、震災から1年8か月後の2012年12月でした。
3.11前後に暴力的になる子どもも「すべて受け止める」
「幼い頃に親を亡くした子どもも多く、3.11の前日にはすごく暴力的になることも。でも、すべて受け止めると決めています。特に子どもは、試し行動をするんです。ここまでやってもこの人は怒らないかどうか、と。それって不安の表れなんですよね。
試し行動は、家族を亡くした子どもによく見られますが、毎年、3.11前後は、この行動が顕著に現れます。誰にぶつければいいのかわからない、やり場のない怒りや悲しみ、言葉にできない不安やイライラを、子どもたちはいつもとは明らかに違うパワー(暴力的な行動)で発散しています。
大人の場合も同じです。たとえば大切な家族を亡くした後、必要な支援を受けられないまま心ない他人の言動で傷ついて、誰も信用できなくなったお母さんたちもいます。ふいに怒鳴ったりもするけれど、それも受け止めて、『私たちはいなくならないよ』と伝えています」
そんな志村さんに対して、「どうしてそこまでするの?」と聞かれることもあるそうですが、志村さんは笑顔でこう言います。
「私、イラッとしてもすぐに忘れられるタイプなんですよ(笑)。怒りをぶつけるということは、それだけ私に対して安心してくれているのかな、って。
それに、昔、両親の離婚から辛い経験をしたことがあって、親がいないことで学校や社会で辛い思いをする子どもの気持ちをなんとなく感じることができるんです」
また、志村さんは、起業後、DV家庭の女性の相談にのったり、高校中退後に引きこもりをするなど10代から20代の行き場のない若者をアルバイトで雇って、夜、飲みに行ったりもしていたそう。「今考えると、困難を抱えていた人たちと何らかのかたちで関わっていたんですよね。放っておけなかったのでしょうね」と話します。
「安心感をもてない他人にはこころを開かない、感情を表には出さないもの。それに、親が私に対してストレスを発散することで、子どもへの虐待防止にもつながると思っています。私でいいなら、怒りの感情も受け止めてあげたいです」