玄関先で泣き崩れた母親も

必要に迫られて活動を進める志村さんのもとには、自然と子どもに関する情報や相談が集まるようになりました。

 

当時、志村さんが出会った人のほとんどは、大人も子どももほぼPTSDの状態だったそう。学校に行けなくなった子どもの自宅を訪ね、「元気ですか?」と声をかけると、ドアを開けた瞬間に泣き崩れる母親。聞けば、子どもは3か月不登校だったといいます。「何とかしなければ」。切迫した状況が志村さんをさらに突き動かしました。

 

アートセラピーを学ぶ機会があった志村さんは、子どもたちに自分の気持ちを色や形で表現してもらう心理療法を取り入れながら、子どもたちと接していきます。東京から使わなくなったプレハブを石巻に移動させ、被害の大きかった地域に児童クラブをつくって不登校の子どもたちを集め、遊びや学習支援、アートのワークショップなどを行いました。

 

子どものアートセラピーの様子
子どものアートセラピー。言語化できない不安感情を色や形などで表に出していった

「PTSDの子どもたちは、余震があるとフラッシュバックで息ができなくなるなど、さまざまな症状が出ていました。家族を亡くした子も多くて。

 

最初は私ひとりで行っていたのですが、2年目からは石巻市の健康推進課の委託事業として、手伝いの人を増やしながら続けました」

 

子どものアートセラピーの様子
言語化できない感情をアートを通じて表出

こころのケアといえば、臨床心理士など有資格者の領域だと捉えられることが多いですが、志村さんは専門職ではありませんでした。それでも、目の前の子どもに声をかけ、話を聴き、一緒に遊ぶ…そんな実践を重ねるうちに、どんなふうにこころの状態が回復していくかを実感していったそうです。

 

「子どもたちと関わっていくなかで、先生や専門家ではなく、近所のおばちゃんくらいの存在でいるのがいいのかなと思うようになりました。専門家というと身構えて話ができなくなったり、自分は病気ではないと泣き出したりする子もいて。子どもたちには、友達と母親の中間くらいの存在が必要なんだと思いました」

 

親子アートセラピーの様子
親子アートセラピーで気持ちを色にのせて表現