網と哺乳瓶を持って…

── どんなことが好きなお子さんだったんですか。

 

すずきさん:魚も虫も、電車も、動物も工作も。いろんなことに興味がありました。前の日に木の幹にゼリーをつけておいて次の日にカブトムシを採ったり、蚕を育てたり。電車はワイパーを見ただけでどんな車種でも分かるくらいでしたし、動物もいろんなものを飼いました。ハムスター、ウサギ、フクロモモンガ…。今もアメフクラガエルが家にいます。

 

4歳ごろから工作を始めて、最初は厚紙で作っていたのですが、だんだん豆電球をつけるなど緻密になって。そこから今でも魚の水槽の装置などは自分で作っています。

 

── 魚以外にもたくさんのことに興味があったんですね。特に魚が好きになったのはいつ頃からだったんでしょう。

 

すずきさん:夫の父が魚好きで、夫も小さいときから磯遊びをして育ちました。結婚後も家で魚を飼っていたので、息子は生まれながらに家に魚のいる水槽がある環境でした。

 

海辺に出かけることも多く、まだ寝返りもしないうちから、漁港にシートを敷いて寝転がせていたことも。1歳くらいになると、親が体を支えてあげて、息子も網片手に魚を採ろうとしていました。もう片方の手には哺乳瓶を持って(笑)。

 

グアムの海辺で砂遊びをする5歳の鈴木香里武さんと母親のすずきかなこさん

── 想像以上に幼いときから!驚きました。

 

すずきさん:最初はいろんな魚をとにかく捕まえたかったんですが、だんだん小さい幼魚に特化していったと思います。リュウグウノツカイの赤ちゃんを捕まえたのをきっかけに、深海幼魚にも興味を持ち始めたようです。

 

でも小学校のころは、魚の話をしてもクラスで誰もつきあってくれないと言って、「僕が魚の話をしてもすぐ終わってしまう。仲がいい子もゲームの話になると、みんなのほうに行ってしまってすごく寂しい」と。学校で孤独を感じていたようでした。

 

── 心配ですね。どうされたんですか。

 

すずきさん:私は「それならゲームを買ってあげようか」って(笑)。「のめり込まなくていいからとりあえずゲームもしておけば、みんなと話はできるでしょ。あってもいいんじゃない?」と言ったのですが「僕はいらない」って。

 

── 悩ましい問題です。

 

すずきさん:親としてはすごく心配しました。小学校5年生の担任の先生が、生徒と毎日、交換日記をしてくださっていたんですが、ある日、先生から「お話をしたい」と呼び出されて。

 

「香里武くんの日記に、『僕はクラスのなかのホコリだ』と書いてあって、気になっています」と。私からも「家でも集団のなかでの孤独を感じているような話はしています」とお伝えしました。

 

先生は、「わかりました。クラスで魚を飼おうと思うんです。香里武くんが持っているいいところで自分に自信をつけさせたい。それをしないと、学校に来たくなくなってしまうと思うんです、今その境目にいると感じています」とのことでした。

 

── 素敵な先生ですね。

 

すずきさん:本当にありがたかったです。このことを家で話したら息子はすごく喜んで。その日の夜に先生にお礼の電話をしました。ありがたくも申し訳なくもありましたが、日曜日に先生と一緒に水槽や魚を買いに行きました。

 

次の日から息子は、餌のあげ方の紹介をしたり、水槽の水替えをしたり。魚にみんなで名前をつけて育てていたようで、毎日忙しくなっていったそうです。

 

家族3人でメキシコを訪れた際にカリブ海のビーチで撮影。カリビアンブルーの海が美しい!

── 効果バッチリですね!

 

すずきさん:クラスのみんなからどんどん質問されるようでした。しばらくして「クラスのホコリだって言ってたのは、どうかな?」と聞いたら「うーん、今はゴミくらい」って。「お!大きくなった。昇格したね!」と笑い合いましたが、本当に嬉しかったです。

 

そのうちまったく孤独を感じなくなったようでした。6年生が終わるときに先生から、水槽を引き取ってほしいと言われたんです。てっきり学校の費用で購入して、次の学年に引き継ぐものだと思っていたのですが、なんと先生が自腹で購入されていたようで、もうびっくりしてしまって。涙が出ました。

 

小学校6年間のうち4年間を担任してくださった、とてもお若い先生でした。今でも繋がりがあって、先生方の研究会で息子が講演させていただくことも。本当にありがたいです。

 

イタリアのベネチアを訪れた鈴木香里武さんと母親のすずきかなこさん。運河沿いの街並みが美しい!

── 今では大好きな幼魚の知識を活かして、本の出版やテレビへの出演など幅広く活躍されています。

 

すずきさん:個性は、邪魔しなければ伸びていくと思いました。達成感を感じる成功体験を積み重ねていくことが大事だと思っています。

 

人との接し方に対しては成功体験が少なかったのですが、学校の先生や周りの大人たちがそこを埋めてくれました。私たちも積極的にいろいろな人に会わせてきたのですが、だんだん大きくなると息子が大人と深い話をしていくようになったんです。決して私たち親だけではできなかったと思うので、出会った方には感謝しかありません。

 

PROFILE すずきかなこさん

ラジオ番組のアシスタントとして勤務し、作詞家として明石家さんま、吉田栄作、石田純一等に歌詞を提供。子育ての経験を活かして2002年〜幼児向けの歌の作詞を手がける。「おかあさんといっしょ」、「いないいないばあっ!」を中心に、小さいお子さんが楽しめてお母さんの子育てに役立つような歌詞を生み出している。

取材・文/内橋明日香 写真提供/すずきかなこ