シルクハットを被り「ルネッサーンス」と乾杯する芸で一世を風靡した、お笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世さん。現在はラジオやエッセイに活動の場を移し、活動を続けています。現在のネタのスタイルや働き方にたどり着くまでには、さまざまなトライ&エラーの末の“諦め”があった、と明かします。(全5回中の3回目)
若いときからいいテンポで失敗することが大切
── 現在はラジオやエッセイなどに活躍の場を移しています。今はテレビで売れることだけが正解、という世の中でもなくなってきたようにも思います。
山田さん:売れる手段はまぁ、そうですよね。YouTubeとかね。
ただ、僕らぐらいの世代にとっては、芸人としての正解って、“発明”なんですよね。
漫才やコントの中で、他と被らないオリジナリティのある芸を発明して、ネタ番組に出る。それがドーンとハネて、翌日から事務所の問い合わせの電話が鳴りっぱなし。いろんな番組にバーっと出る、というのが成功だ、と思っていたんですよね。
先輩にもそう言われてきたし、自分でもそう思ってきた都合上、あんまり軽々しく「テレビに出るだけがお笑い芸人の成功やない」とは、言ってはダメな気がしてるんです。
僕らより下の世代で、そういう環境で育った子らは胸を張って言えるでしょうけど。我々が「そういう時代やから」と言い出すと、負けをごまかしている感じに見えてしまうと思うんです。
── そんな山田さんが現在の、ご自身にあった活躍の場を見つけられたのは、どうしてだったのでしょうか。
山田さん:それは、諦めることでしょうか。
先生とかタレントとか、表に立つ人というのは、耳触りの良い「みんなには無限の可能性があるんだよ」なんて子どもに言ってしまいがちなんですけど。
「なんにでもなれる」と言われたら、人って「どれをやったらええの?」って立ち止まるんですよね。
大事なのは若いときからいいテンポで失敗していく。選択肢をつぶしていく作業が必要だと思います。
最初の「これにしようかな」で、向いていることや得意なことを引き当てることができるのが、天才だと思うんです。僕のような凡人は、「これはあかんかった」「こっちもあかんねや、向いてないねや」と、消去法で選択肢を一つひとつ潰していく。それで残ったもので、誠意をもって頑張るというやり方が、コストパフォーマンスがいちばんいい気がするんです。
その意味でも、若いうちになるべく負けておく。結果「これしか残ってないか」という、諦めに近いんですけども。でも、そうやって、自分のことを諦めてあげるということが良いのかなと思ったりもします。