移住して古典講談を深めるのにも役立った

── 山口県に移住されて良かったですか?

 

京子さん:はい!心からリラックスできるので本当に気持ちが落ち着きました。

 

東京在住のときは、地方から羽田空港に着く直前に「さぁっ、力入れてがんばるぞ!」と気合いをいれたものです。

 

でも、いまは山口宇部空港に到着するや「さぁ美味しいもの食べてのんびりしよう」と、心底リラックスして母業に打ちこめます。

 

山口の限界集落の空き家をリノベーションし、寄席やイベント空間として使える施設に

── 移住後に新しくはじめた活動は?

 

京子さん:山口県についてほとんど知らなかったからこそ、住んでみてやりたいことがたくさん。

 

地元で知り合った仲間と限界集落の空き家をリノベーションし、寄席やイベント空間として使える施設に作りかえました。そこで、東京からゲストを呼んでイベントをしたり、地域プロジェクトとしてお寺で怪談噺の会を開きました。

 

山口県にまつわる人物伝の新作講談もうまれ、とくに『金子みすゞ伝』は各地で好評でした。

 

── いままでも、ジャズ・オペラ・クラシック・義太夫・狂言など異分野とのコラボレーションに積極的に挑戦されてきましたが、移住で講談師としての仕事にも弾みがついたのでは?

 

京子さん:山口と地方や東京間を移動するうちに、東京中心の生活では気づかなかったエピソードや価値観に出会って、インスピレーションがわきつづけています。

 

“オペラとのコラボ”で『カルメン』を上演した際の豪華なメンバー!

東京にいながら江戸時代を考えるのと、山口という西国から江戸時代を考えるのとではまったく感覚が違います。

 

地方の藩にとっての江戸幕府の存在、参勤交代がいかに大事業だったか。山口から羽田は飛行機で1時間半、この距離をよく大人数で歩いたりカゴや舟で往復したりしていたものだと上空から感慨深く見ています。

 

明治維新だって黒船来航をうけて西国の薩摩藩や長州藩が動き出し、やがて京都での鳥羽・伏見の戦い、江戸の無血開城、最後は函館へ…と物語の中心は、人々とともに西から東に移っていきます。

 

2019年、清水次郎長伝を語る京子さん

同じ時代に違う場所でいろんなことが起きて、大きな時代の変化につながったんだと日本を見渡せる視点を得たのは大きいです。

 

地方に移住したことで、地方起点で歴史を考える機会が増え、地理的な観点で歴史を俯瞰する楽しさに目覚めました。鳥の眼に近いかな。

 

移住によって得た視点で講談への理解を深めるのは楽しくてたまりません。ジョギングで山口市内の史跡をめぐるだけでも、想像がふくらみます。