「移住すると、新しい視点やアイデアが生まれる。オンオフのメリハリもついて充実しています」と話すのは、女性講談師の神田京子さん。縁もゆかりもない山口県に、突然、移住した京子さん一家の決断や、移住後の生活について聞きました。

 

サラサラな砂に埋まる長男くんと夫で詩人の桑原滝弥さん

縁もない山口県を移住先に選んだ訳

── 真打(しんうち)昇進後に出産し、2020年2月に山口県に移住されました。寄席は東京に多いのですが、なぜ移住を?

 

京子さん:一番の理由は、子育てと仕事を完全にわけたかったからです。都会にいると情報も人も多くて、ずっと“オン”モードでがんばっている感じでした。

 

子どもがいなくて仕事に注力しているときはそれでもよかったのですが、子どもが生まれると生活に“余白”が欲しくなったんです。

 

でも、東京の当時の私の生活スタイルでは力を抜いてリラックスすることが難しい。住んでいた品川区の町は、商店街の風情などをとても気にいっていたのですが…。

 

ふと自分のスケジュールをながめると、月の半分は仕事で地方に行っている。夫は在宅が多い。

 

2021年、七五三用に親子3人でとったとびきりの笑顔が眩しい!

暮らすのは東京でなくてもいいんじゃないかと。詩人である夫もこの発想を面白がってくれました。

 

最後のひと押しは、当時3歳の息子が突然放ったひと言「パパ、運命を信じろよ!」。大きな災害など予想できないことが起きる時代だからこそ、いまの自分たちの意志を大切にしたい。息子の言葉に、ハッとさせられ移住を決意しました。

 

── 息子さん、かっこいいですね(笑)。ご出身は京子さんが岐阜県で、ご主人が三重県。どちらかの実家の近くに移住する選択肢もあったかと思いますが、山口県を選んだ理由は?

 

京子さん:まず、実家の近くだと甘えてしまう…。親がありがたく元気なうちに、新天地に住んでみたいと。

 

もちろん、千葉県や山梨県など関東近辺も探しましたが、視点を完全に変えてみたくなったんです。

 

山口県は未知の県だったので、講談師と詩人のカップルが移住したら、地域文化のために何かできるかもしれないという淡い期待もありました。

 

それに26歳で夭折した童謡詩人・金子みすゞや詩人の中原中也を生み、文学的にも興味惹かれる場所。私たち夫婦にはとても面白い出会いがある予感を持てました。