「科学的な視点」も考慮して音楽の活用を考える

このように環境を整えてあげたうえで、「音楽」の活用を考えていきましょう。

 

人間は物事を考えるときに、ワーキングメモリ(作業記憶)を使います。これは脳の前頭前野の働きのひとつで、作業や動作に必要な情報を一時的に保存して処理する能力のこと。相手の話を聞いて答える「会話」や読みながら声に出す「音読」など、同時に複数の動作ができるのは、このワーキングメモリのおかげです。

 

しかし、ワーキングメモリは使いすぎると注意散漫になり、パフォーマンスが落ちます。人間の脳は基本的にシングルタスクに向いているのです。そのため、数学の難しい問題を解くなど、ワーキングメモリをフルで使うときに音楽が流れてくると脳に負担がかかって思考力が低下してしまいます。

 

いっぽうで、簡単な計算や書き写して記憶するなどの単純作業は、ワーキングメモリをフルに使うわけではないので、その余白に音楽が流れてくることで脳の働きが安定します。つまり、基本的には音楽は学習効率を落としますが、単純作業を行うときは効果を発揮するということです。

 

また、脳が歌詞の意味を捉え始めてしまうと当然、集中力が落ちますので、音楽を聴くなら歌詞がない曲が望ましいです。たとえばクラシックやスロージャズ、波の音などの環境音楽なら問題ないかと思います。

 

ただ、音楽を聴くと脳でドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されて気分がよくなるため、勉強した気になりがちです。音楽を聴いているときとそうでないときでどのくらい学習効果に差が出ているのかは、一定時間内の学習成果量を計測して比較し、自分に合った学習法なのかどうかを客観的には判断されたほうがよいでしょう。

 

音楽そのものは精神を安定させてくれたり気分を高揚させてくれたりするポジティブな効果があるので、1~2曲好きな音楽を聞いてから勉強に取り組み始めるなど、景気づけとしてルーティンに組み込むのはよい知恵だと思います。

 

とにかくご家族としては、まずは学習しやすくなるよう環境を整えてあげましょう。そのうえで、音楽を活用するのであれば、脳科学的な視点も考慮したうえで上手に取り入れてください。この2段階での検討が必要です。

 

PROFILE 小川大介さん

教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ イラスト/まゆか!