「体験が多い=成長チャンスがある」は勘違い

ご相談者様は「世界を広げてあげたいと思って、いろいろな習い事を提案している」とおっしゃっていますが、それぞれの習い事について、お子さんが想像のなかで疑似体験できるほどに詳しく伝えてきたでしょうか。

 

詳しく伝えるというのは、説明を一方的に押しつけるということではありません。お子さんのイメージが膨らむのを待ってあげながら、情報を適宜渡して決めさせてあげるということです。お子さんのテンポやゆとりを大切にしてきたかどうか、今一度振り返ってみてください。

 

そもそも「いろんなことを体験したほうが、成長チャンスがある」と思っている方は多いかもしれませんが、それは勘違いです。押しつけられた体験は、経験にはなりません。体験=経験なのではなく、先ほども述べたように、体験したことを自分ごととして感じ、味わって初めて経験になるのです。

 

あれこれ手を出していくことで視野が広がるタイプの子もいますが、ご相談者様のお子さんのようにじっくり型の子には、むやみに体験をさせても上滑りするだけです。

 

もちろん、放っておいても子どもは新しいものには出合いませんので、材料を並べて出合いの入り口をつくってあげるのはよいことです。ただ、何かを選び決定する主導権はお子さん本人にあるのだということは決して忘れないでいただきたいと思います。

 

ご相談者様はひとまず落ち着いて、すぐに答えを欲しがってしまうご自身を変えていきましょう。お子さんは、決して向上心やチャレンジ精神がないわけではありません。子どもは段階的に「やりたい」が育つという前提に立ち、お子さんのリズムを理解して接してあげてほしいと思います。

 

PROFILE 小川大介さん


教育家・見守る子育て研究所(R)所長。京大法卒。30年の中学受験指導と6000回の面談で培った洞察力と的確な助言により、幼児低学年からの能力育成、子育て支援で実績を重ねる。メディア出演・著書多数。Youtubeチャンネル「見守る子育て研究所」。

取材・構成/佐藤ちひろ イラスト/まゆか!