一人ひとりが人生をかけて取り組む課題を見つける
── たくさんあって、名称も複雑、何をどう選んだらいいのか、迷ってしまいそうです!
藤田さん:そもそも、人と社会に必要なこと、未来の社会に必要なものは数えきれないほどあるという認識を持つことが前提ですからね。
ただ、解決すべき課題は山ほどありますが、ひとりでその課題すべてに立ち向かう必要はありません。だって、人も山ほどいるわけですから。
自分が解決する課題をひとつ見定めて、いつかそれを解決できたなら、それだけで一流のエンジニアになります。
そのたったひとつを、たくさんの課題のなかからどうやって見つけるのか。これはエンジニアに限らず、仕事をしていくうえで一番大事なことではないでしょうか。どの課題が自分にふさわしいのか。人生をかけて取り組む課題をどうやって見つけるのか。その糸口になるのが自分の個性です。
個性は一人ひとり違いますから、取り組むべき課題も、その手段も、一人ひとり違います。それを見つけるために、本学部では、通常の工学的なカリキュラム以外に、コーチングに力を入れています。
藤田さん:学生が何をしたいか見つけられるよう、すべての学生に正チューターと副チューターの教員がつき、年2回学生の相談にのる制度があります。その際、「相談にのるのであって、教えるのではない」という姿勢を徹底できるよう、教員にはコーチングの講習会をやっています。
さらに1年生の間は、自分の個性に応じた未来像を描く、なりたい自分になるための方法を探すなど、セルフコーチングの概論を学ぶ必修科目があります。
2年生になったら、マンツーマンでプロのコーチングの人についてもらい、自分は本当は何がしたいのかといった、自身の根本的な動機を把握します。自分のやりたいことをはっきりさせてから、3年、4年で履修する講座を選択するわけです。
3年生になったら、企画や開発をリードしたい人に必要な能力、たとえば非言語コミュニケーションなどについて学ぶプログラムを導入する予定です。
院に進学するのか、就職するのか、いずれにせよ、その先の人生は自分で切り開いていくことになります。そのときに自分の個性に合った主体的な生き方ができるよう育てるのが、大学の責任だと思っています。
藤田さん:コーチングは、まさに社会に出てからのことを見据えたものです。
ある企業の方から聞いたのですが、有名大学の工学系に進んだ女子学生の3割は、卒業後、工学分野に進まないのだそうです。
仮に工学系の企業や研究室に入っても、他は全員男性で、自分の考えることや自分の価値観が理解されず、がっかりしてしまう…。そういう女性エンジニアが少なからずいる。
そういうときに自分を支えてくれるのは、「自分はこれを実現するために仕事している」「これを実現するために人生を授かった」という意識だと思うんですね。それを見つけてもらうことが、コーチングの一番の目的です。