── 児童養護施設に、親が子どもを連れ戻しに来る場合も多いんですね。

 

谷村園長:そうなんです。虐待が起きて通報があり、「絶対に一時保護の必要がある」と判断された場合、最初は児童相談所の一時保護所が預かるのですが、すでにパンク状態のこともしょっちゅうで。児童養護施設に「空いていますか?預かってもらえますか?」と打診され、対応することがあります。

 

難しいのは、一時保護した子をその後、どうするか。まずは保護した子からじっくり話を聞くようにしています。

 

たとえば、「お母さんが弟の首を絞めた」と小学低学年のお姉ちゃんがたまたま知っていた189に通報したケースもありました。児童相談所から、児童養護施設につながったんですね。弟はお母さんが怖い。それはもう、すごく怖いですよね。

 

ただ、最終的に子どもたちをどうするかの方針の決定権は児童相談所にあり、「親と離れ離れにするのは時期尚早」と判断される場合もあります。でも、本当に状況や子どもの本音を理解しているのか。そういう課題感はつねにあります。

 

── 子どもの本音ですか?

 

谷村園長:たまたま子どもが「家に帰りたい」と言っていたのを聞いたからといって、すぐに判断するのではなく、「帰りたい」の本当の意味を考える必要があります。子どもの表情を見ながら慎重に判断していかなければならない。それは私たち児童福祉施設にとっても大きな課題だと思います。

 

子どもたちが作ったハンバーグ

── 普段でも、子どもの本音を聞くことは難しいと感じています。ましてや、緊急時の切迫した状態では本音を知るのはさらに難しいかもしれません。

 

谷村園長:そうですね。ただ、私たちのような児童養護施設で働く人間には、子どもと長く一緒に暮らしていると、その子の表情をよく観察することで気持ちがわかってくるときがあります。その瞬間を大切にして、子どもたちとしっかり向き合う。そしてその子にとって最善の方法を考え続けなければなりません。

 

私はもともと滋賀県の職員で、定年退職と同時に守山学園の園長になったのですが、県内の児童相談所には一緒に仕事をした職員もいます。そういった事情もあり、多少は話し合いができる状況があります。通常は児童養護施設から児童相談所に意見するのは難しい状況です。

 

守山学園という小さな施設でも難しいケースを抱えているので、定員の多い児童養護施設ではもっと課題が山積みだと思います。