“ルッキズム”でも人を傷つけない笑いを
── 新喜劇は関西だけでなく、いろんな地域の方々が観る存在なんですね。ただ、幼いころから新喜劇を見慣れている人にはふつうでも、初めての人には過激に感じるシーンもあるのではないでしょうか?多様性やハラスメントなど時代の変化は、新喜劇に影響を与えていますか?
酒井さん:
いまのところ、新喜劇の内容自体にクレームはあまりないようです。
もともと新喜劇では、座員個人の身体的特徴や動き・話し方をネタにすることも多いです。身長149cmの池乃めだか師匠は、小さいことをアピールポイントにされていて、皆がそれにつっこみます。
でも、すっちーさん、川畑泰史さん、私の座長3人とも、時代の変化を気にしており、たしかにいじり方や表現が難しくなってきていると認識しています。
時代やお客さんの意識の変化に応じて、私たちも変わっていかなければならないし、うまく調整してやっていきたいです。
── 私はいまの新喜劇が好きなので、変な自主規制でおもしろさが半減すると残念です。でも、7歳の娘が夫に「お父さん、顔パンパン(川畑座長ネタ)、太ってるよね!」と言って、夫が落ち込んでいるのを見ると、あらら…って。お友だちにはそれはダメ、新喜劇はお芝居だから特別、と教えています。
酒井さん:
そうなりますよね~、お父さん、すいません(笑)。あれは芝居の中だけ、と理解して観てもらえればと思います。
何よりも大切なのは、人を傷つけないこと。多少過激な台詞もありますが、何か言われても、必ず言われたほうが逆手にとって言い返す展開にしています。
「お前もやろ」「なんでやねん」「おかしいやろ」と言い返して、ちゃんとやりとりが成立していることが重要です。
行きすぎもダメだけど、やられっぱなし、ほったらかしには絶対しません。相手への“愛”をもって会話して、悪口はその場で必ず回収する感じかな。
── なるほど、一方的に攻撃するのは“いじめ”ですものね。
酒井さん:
そうそう、不公平や意地悪な雰囲気は絶対ダメです。
池乃めだか師匠の身長ネタなら、「じいじ、小さいなぁ、どこにおるかわからん」に、「お前が大きすぎるねん、よく育ったもんや、ええこっちゃ」と返したり。
── 酒井さんは、“ルッキズム”を台詞に取り入れたこともありますね。時代を反映していて感服しました。
酒井さん:
「人を見た目で判断するのは最低です、それルッキズムって言います。くそデブ!」からの「お前もやろ!」の返しですね。
スパイスとしての笑いには、バランス感覚が問われます。これからも向き合っていくべきテーマです。