「大切なのは人を傷つけないこと。過激なセリフもありますが、必ず言われたほうが逆手にとって言い返す展開にしています」と、座長の酒井藍さんは言います。多様性やルッキズムが注目されるなか、吉本新喜劇の笑いはどこへ向かうのか?若き女性座長に聞きました。
座員の似顔絵を一心不乱に描き続けたコロナ禍
── 酒井さんが女性初の座長に就任して4年目、新型コロナウィルスにより新喜劇は4か月休館、その後も座員の感染によりたびたび舞台が中止になりました。
酒井さん:
こんなこと起きるんや…と信じられませんでした。皆に会えなくて寂しいし、見通しもつかず不安。
どうしようもなくなって、朝から晩まで座員の似顔絵をア行から順に描き続け、5日間で111人全員分を描き上げました。
いまから思えば、新喜劇が好きすぎるファンの異様な行動ですよね、自分でも気持ち悪い(笑)。でも、描きたい自分を抑えることができなかった。
── 似顔絵は座員にも好評で、翌年にはこのとき描いた似顔絵の個展が開かれました。1枚6600円でファンの方々が買い求められたとか。
酒井さん:
まったく意図してなかったのですが、「これだけ数があったら個展できるんちゃう?」と言ってもらえて。
売るなんてめっそうもないと、最初は「500円くらいなら」と言ったら、「アホか!」みたいな空気が流れて(笑)。
── 似顔絵モデルの座員たちも、さすがに安すぎるって感じですよね(笑)。でもコロナによる休館もネガティブな影響ばかりではなかったようで安心しました。休館明けの舞台はいかがでしたか?
酒井さん:
皆と直接会って、話すことができる。舞台に上がれる。コロナ前は当たり前でしたが、こんなに幸せなことはないと実感しました。
マスク越しなので客席の笑い声は小さめですけど、私たちの気持ちはお客さんに届いていると信じています。
客席には修学旅行生や北海道や鹿児島など遠方からのお客さんも来られて、以前の状態に戻りつつあります。