「60歳女性がヒロインでもいい」多様な愛のカタチを伝えたい
── 今後も、時代の変化とともに新喜劇を見続けます。ひるがえってお笑いの世界は、依然、男性社会だと言われています。新喜劇では座員の7割が男性。新喜劇63年間の歴史で前例のない女性座長に、周囲の反応は?
酒井さん:
座長昇進を伝えたら、女性の座員が本当に喜んでくれました。「ほんまによかった」「こんな嬉しいことはない」と泣いて抱きしめてくれる先輩方も。
私自身、“女性初”はあまり意識していませんが、女性ならではの視点を入れた芝居づくりをしていきたいです。
── 女性ならではの視点とは?
酒井さん:
作品にはマドンナ(ヒロイン)役が必要です。マドンナ役は、“若くてかわいい女性”のイメージを持たれているかもしれませんが、誰がマドンナ役をやってもいいはずです。
私が台本を考える場合は、年配の座員をマドンナにすることもあります。
60歳の女性に恋する年下の男の子がいてもいいじゃないですか。美人である必要もない。年配のカップルの愛情をメインにすることも多いです。
──「人を愛するのに、年齢や性別、家柄は関係ないじゃないですか」という台詞を、芝居の中盤で何度か耳にしたことがあります。
酒井さん:
伝えたいのはそこかもしれません。いろんな愛のカタチや生き方がある。同時に、お客さんの“胸キュンポイント”はどこだろうとつねに探りながら、芝居を考えています。
── ちなみに、酒井さんの“胸キュン”はどういうときに?
酒井さん:
いやー、私自身はまったくなんですよ(笑)。今年36歳になり、もう忙しさは言い訳にできません。クリスマスデートにめっちゃ憧れるけど、とにかく出会いがない。
── こんなにチャーミングで親しみやすい人柄なのに意外です。どういう人がタイプなんでしょう?芸人さんは?座員同士のカップルもおられますよね。
酒井さん:
年上ですべてを包み込んでくれる優しい人がいいなぁ。できれば芸人以外で。座長の立場では座員とつきあいにくいですし。
子どもを育てながら家事もこなしつつ、舞台に上がり続ける女性の先輩たちを見ているので、もちろん私もいつかは、と夢見ています。
でも、こんなに恋愛に憧れているのに、奥手すぎて一歩が踏み出せないんですよ~。ほんまに、いちばんの悩み。
新喜劇が大好きすぎて、もう“新喜劇と結婚した女”みたいになってます(笑)。
PROFILE 酒井藍さん
奈良県出身。2007年、奈良県警(事務)勤務を経て、吉本新喜劇「第3個目金の卵オーディション」合格。2017年、30歳で吉本新喜劇初の女性座長に就任。柔道二段。
取材・文/岡本聡子 画像提供/吉本興業株式会社、酒井藍