今年は全国的にベランダや窓からの子どもの転落事故が相次いで起きました。ベランダからの転落事故は、昔から起きており、多くの方が危険を認識しているにも関わらず、なぜ今ここまで頻発して予防することができていないのか──。子どもの傷害予防を専門に行うNPO法人 Safe Kids Japanの大野理事に伺いました。
対策をしない保護者の意外な理由は
── 転落事故予防について考えるため、実際に子どもがどのくらいの高さまで乗り越えられるかの実験をしたと伺っています。
大野さん:
3歳〜5歳児クラスの保育園児を対象に、ベランダの柵にみたてた実験機を作って実験を行いました。制限時間30秒で子どもたちに登ってもらいましたが、その結果、140cmの高さにしても、4〜5歳になると乗り越えられてしまうことがわかりました。
現在の建築基準法に定められている110cm以上という基準では、子どもたちが簡単に乗り越えられてしまうということが見てとれると思います。
大野さん:
普段の生活では、これに加えて踏み台などの足掛かりになるものを使ってしまえば、どんな高さでも乗り越えられてしまいますし、子どもたちは賢いので、今できないことも学習して次はできるようになることもあります。
── ベランダの柵の高さが何cmであれば安全とは言えない状況ですね。
大野さん:
現状、落ちないベランダというものはないということを知っていただきたいです。子どもの転落事故は昔から起きているもので、我々も、ベランダに物を置かないようにとか、外に出られないようにしましょうと長年、啓発をしてきました。
でもそれが機能しないまま過ぎてしまって、まだ事故が多発しています。もう一度、どうしたら本当に予防できるかを考えなくてはならない時期に入っていると思います。
── 転落事故が相次いで起きる理由はなぜだと思いますか。
大野さん:
最大の理由は、落ちないベランダのデザインといった、予防効果の高い環境改善案がないことですが、現状では、これだけ転落事故が頻発して、小さいお子さんがいるご家庭は気になっていると思いますし、意識も高まっていると思います。とは言っても実際に対策をとるなど、行動に移す人は少ないことも原因だと思っています。
保護者の方に「なぜ対策をしないのか」という調査をしたのですが、「うちは子どもをベランダにひとりで出していないから大丈夫」という意見が最も多い回答でした。しかし、いわゆる「見守り」の予防効果は明らかにされてません。「見守っているから大丈夫」という、その誤解を解きたいと思っています。
── 私も、まさにそう思っていました。
大野さん:
事故は子どもがひとりで出てしまったときに起きるものなので、普段ひとりでベランダに出していないことで対策ができていると思うのは間違いです。
見守りはもちろん大切なことで続けていかなければなりませんが、事故は見守りができないときに起きますし、決して鍵をつけなくてもいい理由にはなりません。ベランダや窓からの転落事故に関しては今、人の努力でしか予防ができない事故なので、補助錠を設置するなど具体的な行動をとることが大事だと思います。